歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



獅童さんの当意即妙のトークに会場は大盛り上がり、大阪松竹座で再演となる『母をたずねて膝栗毛』も爆笑必至の舞台です。続く7月は、3度目の『怪談乳房榎』磯貝浪江をいよいよニューヨークで披露。その先も歌舞伎の舞台を中心に活躍が続く獅童さんです。

 


①渡辺雪三郎さんがデザインされた訪問着と帯をお召しになった青木暁子さん。落ち着いた水色にシックな現代柄が配されて、モダンな中にも品のよさが表れています。これまで水色はあまり選ぶことのない色味だったそうですが、人に薦められて身体に合わせてみたら、自分でも驚くほどしっくりきたとか。格のある帯は観劇はもちろん、留袖などに合わせて、礼装に用いることもできそう。


②水野喜代子さんがお召しになったのは、薄いパープルピンクの色無地。白樺の地紋が配された最慶のものです。地紋が上品に浮き出るような色合いが気に入って選ばれたとか。華やかながらシックな色味で落ち着きがあります。帯は白に銀糸の入った最慶のもの。吉祥柄が施されているので、礼装でもおしゃれ用にも使えます。小物を水色にして爽やかな初夏らしいコーディネイトにされていました。

きものを着る楽しみを味わっていただきたいと、長沼静きもの学院ではさまざまなイベントを企画しています。歌舞伎セミナーはきものがぴったりの華やかな雰囲気で毎回大盛況。質問コーナーでは獅童さんの受け答えに引き込まれ、緊張していた質問者にも笑顔がこぼれました。

歌舞伎俳優のオンとオフ
 歌舞伎以外の舞台や映画、テレビと多忙を極める獅童さん。「実は昨日、久しぶりにお休みをいただいたので海に行ったのです。最近ロングボード(サーフィン)に凝っているのですが、海に入ってしばらくして気がついたら鼻が真っ赤。先ほど、ファンデーションを借りてカモフラージュしようとしたのですが、どうも逆効果だったみたい(笑)」と、スクリーンにアップになった顔が気になるご様子。

 会場の皆さんも気づいて、歌舞伎の舞台では見られない歌舞伎俳優の日焼け顔にびっくり。そんな流れから、「オンとオフの切り替え」についてのお話になりました。「楽屋に入ると最初にスイッチが入ります。モニターとスピーカーで舞台の様子がわかるということもありますし、長唄さんなどの部屋から三味線の音が聞こえてきたりもします」。

 「また、楽屋っていつも鬢付け油の匂いが漂っているんです。獅一が荒獅子男之助の化粧をするときに、最初に塗ったのがそれですが、白粉を肌に吸着させるのに必須の、いわば化粧下地です。これを役者全員が使っていますから、この匂いが楽屋には染み付いている。それを嗅ぐと役者のスイッチが入ります」。

中村獅童から役に入るスイッチ
 歌舞伎俳優は一日に何役も演じることが多いですが、「役に入っていくのは、自分の化粧をし始めるあたりからでしょうか。化粧をし、衣裳を付けることでその役の気持ちになっていく。皆さんもそうだと思いますが、役者にとっても、化粧や衣裳はとても大事なものなんです」。

 舞台に出る直前までは普段と変わらず、一歩舞台に踏み出したとたんに役になる人もいるそうですが、獅童さんはオフタイムもそのときに演じている役に影響されることが多いらしいとか。「僕にとって演じるということは、その役になりきってしまうこと。なので、自覚はないのですが、悪人役をやっているときは、普段からけっこう当たりがキツくなるらしいです」。

 歌舞伎以外の舞台や映画などでも、そこは変わらない獅童さん。「弟子やスタッフが、今回の映画はいい人役でよかったなどと言っていることがあります(笑)。6月は大阪松竹座で『母をたずねて膝栗毛』に出演します。楽しい喜劇ですし、僕が演じる忠太郎も基本的にはいい人。ぜひ、“いい人”中村獅童に会いに大阪にもいらしてください」と、にっこり。

 獅童さんの楽しいお話に引き込まれて会場は終始、笑顔と笑い声にあふれていました。歌舞伎俳優の多彩な魅力にひかれて劇場へ、そんなときはぜひきものを着る楽しみもお忘れなく。

 

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