「室華風」の津室伸吾さん。昭和53年生まれ。父から受け継いだ工房を、若きスタッフたちと引き継ぐ新進作家。「もう一歩先、を目指して仕事をしています」。

 

「小糸染芸」の小糸太郎さん 昭和40年生まれ。染色一級技能士と京友禅の伝統工芸士認定。京都市から「未来の名匠」にも認定されている若き五代目です。

 

中嶋剛司さん。昭和43年生まれ。手描き友禅とろうけつ染を融合した蝋彩染を使って、新たな古典柄「新琳派」を提案。歴史ある技法や柄と新しいデザイン、新旧の融合から生まれる美が魅力です。

 

「日本の女性をもっと素敵に美しく」。長沼静きもの学院の代表が、長沼創立60周年を来年に控え、原点にかえって掲げた夢です。昭和55年生まれの長沼秀明代表は、世代の近い5人の作家とともにショーに登場、手を携えて「新たなきものの未来を拓くこと」を宣言しました。

 
初めて一般公開されたきものショー
 毎年開催されている、「長沼静きもの学院」学院祭のメインイベントは、日本最大規模ともいわれる「きものショー」。人間国宝をはじめ人気作家の逸品から、注目の新進作家たちのチャレンジングな作品まで、幅広くきものの可能性を目の当たりにすることができると評判です。それが今年、初めて一般公開。多くのきものファンが楽しみました。

 学院祭では毎回テーマが掲げられますが、今年のそれは「Dreams」。きものが見せてくれる夢がいろいろな形で具現化されました。そのテーマを象徴していたのが、今まで見たことのない夢を描く、新進のきもの作家5人でした。

伝統技法を組み合わせ、若い力で新しく発信
 無線友禅ならではの深みのあるデザインで人気の「室華風」。父の津室道雄氏とともにその工房を担う津室伸吾さんにお話をうかがいました。

 「室華風のきものはアートのようと言っていただくことが多くなりました。ろうけつ染を中心に、さまざまな技法を効果的に組み合わせて、うちならではの意匠を目指したことの成果を認めていただきつつあるのかな、と感じています」

 「しかし、それが適ったのは、うちのスタッフすべてが古典的なきものをよく知ったうえで、室華風ならではの独創性を追求したからではないかと思います。その鍛錬の場として、この学院祭ほどふさわしい場はないと感じています。きもの作家がこんなにそろう場はほかに知りません。毎年、多くの刺激を受けています」

おしゃれ着だからこそ常に新しい提案を
 京都で、主に小紋を扱う型染めの「小糸染芸」の新たなリーダーが小糸太郎さん。五代目となる老舗の後継者ならではのこだわりと、きものの未来を語ってくださいました。

 「型染の工房にとって、伝来の型紙は宝で、うちにも何千という柄の型紙があります。それを従来どおりに使うだけでなく、新たなきものの可能性が感じられるものを生み出すのが、今を生きる私たちに求められていることではと考えています」

 「特にうちが扱っている小紋は、洋服でいえばハイカジュアル、おしゃれ着です。最も時代の影響を受けやすい、つまり変化していいアイテムだと思います。ですから、今の方に楽しんでいただける柄とは、色とは、を常に提案していくのが、小紋屋の務めなのではないかと思います。ただ、そのときに昔の図案もとても参考になるところが、きものの奥深く面白いところだと思います」

先人たちの心意気を継ぎたい
 父がつくり出した技法、手描し友禅とろうけつ染を融合した蝋彩染を継承し、発展させているのは中嶋剛司さんです。

 「きものは、それが日常着であった時代は、常に斬新なものが生み出されていました。江戸時代の意匠などを見ると、僕らでも驚くようなものがたくさん出てきます。現代の作家である僕らが継承すべきは、技法や柄だけでなく、そういった心意気なのではないかと思うのです」

 「僕が提案しているのは琳派を発展させた“新琳派”。デザインはひらめきですが、そのひらめきが、すべて作品として成立するとは限りません。なので、僕は必ずしばらくそのひらめきを寝かせておきます。時間が経って、それでも新鮮に映ったらOKということ。どうしても欲しい、ぜひ着たい、そう思っていただけるきものをつくることが僕らの使命だと思っています」

長沼静きもの学院

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