シネマ歌舞伎~20年の軌跡~ シネマ歌舞伎~20年の軌跡~

 シネマ歌舞伎とは、歌舞伎の舞台公演を高性能カメラで撮影しスクリーンで上映する、「美」と「臨場感」に徹底的にこだわった、映画とはまったく異なる新しい映像作品。平成17(2005)年から、撮影技術を駆使して歌舞伎という古典芸能を新たな視点で表現してきました。今年20周年を迎えるシネマ歌舞伎の歴代作品を振り返るとともに、令和7(2025)年の注目作品をご紹介します。

 歌舞伎作品を高性能カメラで撮影し、映画館で再現するシネマ歌舞伎は、「歌舞伎」と「映画」両方の魅力を組み合わせて、新しいコンテンツです。「名優たちの作品を、100年後にも残したい」という思いから生まれたシネマ歌舞伎の第1弾『野田版 鼠小僧』は、当時は珍しいデジタル撮影で平成17年に制作されたものです。
本作品公開時は、主要都市の映画館ではフィルム形式の上映が主流だったため、シネマ歌舞伎は、デジタル映写機を映画館や地方公共ホールに持ち込むことで上映を行っていました。歌舞伎鑑賞の敷居を下げ、その美しさ、面白さをより広く伝えることを目的として始まったこの試みが、少しずつ広がりを見せ始めます。

 映画の最新の撮影、上映方式を先取りしていたシネマ歌舞伎。平成21(2009)年『法界坊』公開の年には、全国の映画館でもデジタル化が一気に進み、DCP(デジタルシネマパッケージ)の形式に移行していきます。これによりシネマ歌舞伎の上映館数も拡大しました。
『法界坊』は、浅草寺境内に仮設した芝居小屋、平成中村座における上演を収録したもので、芝居小屋の熱気を映画館で体感できる壮観な作品として人気を集めます。歌舞伎ならではの大人数での立廻り、双面などの演出も楽しみながら、舞台公演の客席からは見られないズーム映像などの編集技術で色彩あふれる世界により深く浸れるという点は、シネマ歌舞伎の大きな魅力として認知されるようになりました。

 平成22(2010)年4月に、建て替えのため閉場した第四期歌舞伎座。平成23(2011)年1月公開の『わが心の歌舞伎座』は、平成21年1月から平成22年4月までの16か月間にわたる「歌舞伎座さよなら公演」を中心に、名舞台の数々と名優のインタビュー、舞台を支える人々などで構成されるドキュメンタリーとして公開されました。歌舞伎の真髄に迫り、その輝かしい歴史とともに日本文化を代表する劇場の記録として、大好評を博しました。
一方、歌舞伎座休館中にも、「映画館が歌舞伎座になる!」のキャッチフレーズ通り、シネマ歌舞伎の新たな作品の公開は続きました。そして平成25(2013)年4月、第五期歌舞伎座の新開場にあたり、“歌舞伎座新開場こけら落とし記念”として、《月イチ歌舞伎》が始まりました。歌舞伎を毎月観劇する楽しみを、歌舞伎座公演と同様に映画館でも味わえる人気企画として現在まで続いています。



 シネマ歌舞伎の始まりから10年が経つ頃には、《月イチ歌舞伎》の企画とともに、作品の公開も安定的に行われるようになりました。また映像の収録技術も日々進歩するなか、シネマ歌舞伎の収録においてもその技術は余すことなく発揮されてきました。平成28(2016)年6月公開の『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』では、豪快で目まぐるしく、複雑で緻密な演出の舞台を映像化し、臨場感はもちろんのこと、躍動感あふれる映像美の創造が実現しました。数十台に及ぶカメラ、100本を超えるマイクで、生の舞台を収録。サラウンドやシネスコープのワイド画面など、映像ならではの効果を活かし、『シネマ歌舞伎』だからこそ味わえる、新感覚エンタテインメントへと昇華され、古典歌舞伎だけにとどまらない作品バリエーションへの扉を開きました。そしてその精神は、《月イチ歌舞伎》2025ラインナップとして、令和8(2026)年1月公開予定の『歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼』へと受け継がれていきます。

 現在では、シネマ歌舞伎は全国約50館で上映されています。今年の新作のひとつとして9月26日(金)に公開が予定されているのが、令和6(2024)年に歌舞伎座で上演され、人気を博した『源氏物語 六条御息所の巻』です。六条御息所を演じる坂東玉三郎は、平成18(2006)年上演のシネマ歌舞伎第2弾『鷺娘』から、20作品以上のシネマ歌舞伎(グランドシネマ、特別編含む)に出演し、作品づくりにも積極的に参加、徹底的にこだわりぬいた美の世界で観客を魅了してきました。本作では、光源氏とその妻・葵の上、六条御息所の三者の恋愛模様を描き、六条御息所の情念や揺れ動く心情が、映像ならではの情感あふれる演出で繊細に表現されます。今年で誕生から20年を迎える、シネマ歌舞伎の技術が結集した作品に、どうぞご期待ください。


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