歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



観月茶会の頃は庭がライトアップされ、寺全体が幻想的な空気に包まれる。
上/雄大な自然を庭に写し取った枯山水。(高台寺) 中/お団子を供えて収穫に感謝する、月見のしつらえ。 下/湖月庵で催された観月茶会の様子

利休や秀吉と同じ月を眺め、静かな時を過ごす。

 名所旧跡に限ったとしても見どころがあまりに多く、京都は一週間滞在しても見きれないほど、さまざまな魅力にあふれている。今回は“神秘”をキーワードに、京都の見どころを訪ねていこう。

 秋ならばまずは高台寺。豊臣秀吉の死後、その菩提を弔うために北政所・ねねが開創した寺で、茶道に新しい美意識を打ち出した小堀遠州の作である庭には、開山堂の東に臥龍池、西に偃月池(えんげつち)が配してある。この偃月池にある観月台は、秀吉遺愛のもの。月を愛でるための建物とは、なんとも贅沢。ここから見るのは月そのものというより、むしろ池に映る月ではなかったろうか。水面にゆれる月の神秘的な光。それを愛でながら、昔の人々は酒や茶を楽しんだことだろう。

 高台寺では、こうした楽しみを今に伝える「観月茶会」を開催している。境内にある湖月庵でお茶をいただきつつ、東山の上にかかる月を愛でる催しで、地元の人はもちろん観光客にも人気が高い。国の重要文化財である時雨亭は利休の意匠による茶室を、伏見から移築したもの。茶道を創り上げた孤高の茶人・利休、天下人として風雅の道も我が物とした秀吉、偉大な先駆者に続き新たな美の世界を拓こうとした小堀遠州…そうした人々の想いを静かに照らした月の光。心を静めて、彼らの想いを感じてみたい。

歌舞伎と旅

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