歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



「久慈の琥珀染」の振袖(部分)。合歓の花に娘への想いをこめて。

悠久の時が育てた琥珀の美が描かせる

 三陸鉄道の北の終点・久慈。ここは琥珀の産地として有名な場所だ。琥珀とは太古の樹木の樹脂が化石化したもの。気の遠くなるような時を経て、自然の力が作り出したこの美しい贈り物を、日本の伝統衣装に生かしたいと考えたのが、「花夢衣(カムイ)」の代表・川向辰己さんだ。

 「琥珀染は、琥珀を加工する段階で出る粉末を使います。本来水に溶けることのない琥珀ですが、ある“もの”を加えることで、液状化するのです。この琥珀の液に天然染料を混ぜて模様を描きます」

 最初は琥珀の美しさそのものを、着物に写し取れないかと考えていたが、技術的に難しく、むしろ染料を加えることで色彩も多様化し、表現の幅が広がったという。市川昆監督の映画『細雪』の衣装制作に携わった、京友禅作家で伝統工芸士の椎名淳夫氏も琥珀染め開発に尽力。力をあわせて『久慈の琥珀染』を完成させた。

 「琥珀染は柄に糊おきをせず、直接色を挿していきますので、心のままに生地に筆を走らせて描くことができます。その分わずかな迷いや失敗も許されない、厳しさもある。椎名先生の技量の高さ、感性の鋭さに、毎回驚かされる思いです」

 悠久の時が育てた琥珀、最新の技術開発、そして芸術家が久慈で出会い、現代に新しい美を生み出している。

久慈の琥珀染 花夢衣

住所

 : 

岩手県久慈市川貫7-28-25

TEL

 : 

0194-59-3773

営業時間

 : 

8:00〜20:00

定休日

 : 

不定休
※来店の際は要事前予約

磨かれる前の琥珀(右)と粉末の琥珀(左)。
左上:上の振袖の全景。裾模様の合歓の花は、お客様の家族のエピソードがこめられているとか。
他3点:京友禅作家の椎名淳夫氏は、大胆かつ繊細な表現で具象から抽象まで多彩な図柄を描く。 右:「久慈の琥珀染」の美しさを多くの方に知ってほしいと願う川向辰己さん。

歌舞伎と旅

バックナンバー