歌舞伎いろは

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外国製に負けない糸作りを続ける人びと
80度という熱湯の中で、糸をひいている繭がゆらゆらと踊る。
左:やわらかな風合いの糸がひける諏訪式座繰機。作業するのはベテランの女性ばかりだ。 
右:40年ほど前の諏訪式座繰機の工場。ほとんどしくみが変わっていないことが見て取れる。
左:こちらは上州式。横に、引いた糸を巻き取る部分がある。
右:節のある糸も引けるのが、上州式座繰機の特徴。

 信濃で製糸業者が特に集まっていた岡谷。ここに宮坂製糸所がある。もはや全国でも5つほどしかない製糸工場の中で、伝統的な繰糸機を使って生糸を作るのは、この宮坂製糸所だけだ。ここでは主として諏訪式・上州式・自動繰糸機の3種類を使っている。生糸の品質をよくするために導入された欧州製の繰糸機を参考に、信濃で開発されたのが諏訪式座繰糸機。すべて金属で作らず、木と陶器を組み合わせ、機械を作る際のコストを下げ、しかも作業効率をアップ、高品質の生糸が取れるよう改良した。上州式は、日本古来の方式を上州で改良したもの。戦後捨てられてしまうところだったのを、「この技術をぜひ残したい!」と思い社長の宮坂照彦さんが継承した。
 「諏訪式も上州式も、それぞれひける糸に特徴があり、どちらもよくできている。今は電気で動くモーターをつけていますが、基本的なしくみはできた当時とまったく変わらない。それほど完成された道具だったのです」
 現在も諏訪式・上州式・そして自動繰糸機と、特徴の異なる繰糸機で生糸を生産している宮坂製糸所。着物に直すと年間約3000反分の生糸を作っているそうだ。
 「人の手で作るからこそできる、やわらかな風合いの糸や、節のある味わい深い糸。それは完全に機械でひく糸には出せない味わいです。伝統的な繰糸機の良さを大切にしたことが、岡谷で製糸業を続けてこられた理由でしょうか」
 諏訪式や上州式の繰糸機を後世に伝えたいという宮坂さん。宮坂製糸所の糸は染色や織物の作家たちからも「これでなくては」と支持されている。大量生産、大量消費の時代が終わりつつある今、先人たちの知恵を受け継ぎ、人の手から手へ伝えられていくものが、真に求められているのかもしれない。

 
左:宮坂製糸所の商標タグ。モダンなデザインは創業当時からのもの。
中:引いた糸の太さを調べる機械。昔ながらの機械が現役なのは、その完成度の高さゆえ。 
右:絹織物作家や高級服地メーカーなどから信頼を寄せられる、宮坂製糸所の宮坂照彦さん。
宮坂製糸所
住所 長野県岡谷市東銀座二丁目13-28
TEL 0266-22-3116
HP http://www.msilkpro.com/

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