諏訪湖畔に立つ温泉宿。大正の初めまでは多量の硫黄を含む湯が湧き出ており、その白濁した湯の美しさが「鷺乃湯」の名の由来だとか。大正の震災を境に湯質が変化し、湯の色は白から薄い茶褐色へ。現在の湯は、神経痛や肝臓病などに効果があるといわれている。広々した大浴場もさることながら、普通露天風呂付の部屋（室数7）や、庭を眺めながら気軽に入れる足湯など、さまざまな形で湯の魅力を満喫できるのが嬉しい。日本画家・池上秀畝を始めとした芸術家たちが宿泊の記念に残した品々に、90年以上という創業からの歴史が感じられる。

　店のすぐ裏を流れる川には、昔から滋養食として大切にされてきた鰻をとる、ヤナという仕掛け場があったとか。この鰻を秘伝のタレをつけて炭火で焼き上げたのが、ここの名物「やなまぶし丼」。江戸前より甘くて濃いタレを、わさびと刻みネギでさっぱりとさせるのが特徴だ。香ばしく焼けた皮とふっくらとした身、タレの甘味とわさびの辛味が渾然一体となって、なんとも美味。お土産にしてぜひ誰かに食べさせたくなる味だ。

　明治6年に創業した製糸業で大成功した片倉一族。その二代目・片倉兼太郎が欧米を視察旅行した際、かの地では財を成した者は、文化･福祉で地域にその福を還元していることに感銘を受け、帰国後それを実践。諏訪湖畔に温泉浴場や文化交流のための会館を建設したのが片倉館だ。モダンな西洋風の建物の中に、現在も入浴可能な大浴場（千人風呂）やジャグジーがあり、往時をしのばせる美しいステンドグラスや彫刻も見ることが出来る。