歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 
『八犬伝忠勇揃』 歌川国芳画(弘化〜嘉永年間)八犬士と伏姫の神を描く。 犬江親兵衛仁、犬川荘助義任、犬村大角礼儀などと、八犬士の名前には持っている玉に浮かび上がる「仁」・「義」・「礼」などの文字も入っている。館山市立博物館蔵。無断転載禁。
 今回訪れた南房総にまつわる歌舞伎のお話というと、まさにタイトルに“南総”と入っている『南総里見八犬伝』に触れないわけにはいきません。房総半島の南端にある館山市の城山公園(戦国大名里見氏の最後の居城跡である館山城跡)には八犬伝博物館があり、館山市では毎年10月に南総里見祭りが行われています。お祭り当日には八犬士をはじめとする戦国武者による合戦などが華やかな扮装と演出で盛大に催されます。今年は10月18日(日)に開催されるので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう。

南房総市にある富山(とみさん)。山の中腹には“伏姫が犬の八房と暮らした”という洞窟があり、観光名所になっている。馬琴は一度も南房総を訪れたことがなく人づてに聞いた話や書物に拠って『八犬伝』を書いているので、実際は標高350mしかない富山を“深山幽谷”と描写している。
 さて、『八犬伝』は、江戸時代の戯作者の曲亭馬琴(1767年〜1848年)が28年もの歳月をかけて著した壮大な伝奇小説で、物語が完結する前から歌舞伎や人形浄瑠璃で上演されてきた人気演目でもあります。ここ10年の歌舞伎座においては、「猿之助十八番の内」と銘打った平成11年・14年7月の公演と、平成18年の八月納涼大歌舞伎で上演されています。

 物語の主題は「勧善懲悪」「因果応報」で、あらすじは以下のとおり。
 「里見家の領主・義実(よしなり)は隣国から攻められるも、愛犬・八房(やつふさ)が敵将の首を獲ってきたことで、助けられる。だが、八房はその功績として義実の娘の伏姫を連れて山中にこもり、伏姫は八房の気を受けて孕んでしまう。姫を取り戻しにきた許婚の金碗大輔(かなまりだいすけ)が八房を撃ち殺すが、伏姫は身の純潔を示すため自害する。この時、伏姫が幼い頃に役の行者(えんのぎょうじゃ)から授かっていた護身の数珠から八つの玉が飛び散った。この玉が八方へ飛んで、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字が浮かび上がる霊玉となり、犬で始まる名前、体に牡丹の痣を持った八人の若者、八犬士がこの世に生を受ける。彼らはそれぞれに困難を乗り越えながら因縁に導かれ、やがて里見家の下に結集する。」

歌舞伎でも大きな見どころとなる「八犬伝之内芳流閣」の場。歌川国芳画。大屋根での立廻りや「がんどう返し」などの大道具の装置も大きな楽しみ。早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁(c)The TsubouchiMemorial Museum, WasedaUniversity, All Rights Reserved
 八犬士の名前は、犬飼現八信道(いぬかいげんぱち のぶみち)、 犬塚信乃戌孝(いぬづかしの もりたか)など“犬で始まる名前をもつ”と先に言いましたが、伏姫の「伏」は人偏(にんべん)に「犬」。『八犬伝』はまさに「犬」づくしで、江戸時代に出版された読本の表紙にも犬がいっぱい描かれたものが見られます。前回上演された平成18年は戌年でした。登場人物も魅力的で、華やかで見どころいっぱいの長編伝奇ロマンの『八犬伝』。“次の戌年に”と言わずに、その前にぜひまた上演してほしい演目です。
(次回も『八犬伝』にまつわるお話が続きます。) 文/栄木恵子(編集部)

歌舞伎と旅

バックナンバー