歌舞伎いろは

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『本朝廿四孝 筍堀り』のなかの“越後の軍神”謙信

『本朝廿四孝 筍掘り』三世歌川豊国画。中央は直江山城之助種綱。早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁。
(c)The TsubouchiMemorial Museum, WasedaUniversity, All Rights Reserved.
 前回は『信州川中島合戦 輝虎配膳』に出てくる“越後の軍神”上杉謙信のお話をしましたが、謙信が出てくるお馴染みの歌舞伎演目といえば、『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』を思い浮かべる方が多いでしょう。三姫のひとり八重垣姫が登場する「十種香」「狐火」については、4、5月の当コラムでもご紹介しました。

 この『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』の中に『信州川中島合戦 輝虎配膳』と同じ、山本勘助やその母越路などが登場する「筍掘り」というお話があります。原作では三段目にあたり、四段目にあたる「十種香」「狐火」の前にあるお話です。歌舞伎ではあまり上演されていないのですが、実は『本朝廿四孝』は、この「筍掘り」の中に中国の『二十四孝』の孟宗の故事(※1)に擬した場面があるところから付けられた本外題です。

 その場面とは、まさに、越路の息子・慈悲蔵(じひぞう)が母のために雪中から筍を掘る、というものですが、ここで掘り出したのは、何と!あの『菊畑』にも出てくる軍法書「六韜三略(りくとうさんりゃく)」なのでした。

 この「筍掘り」に登場する人物の慈悲蔵は後に直江山城之助(なおえやましろのすけ)となります(上の錦絵の中央にも描かれています)。そういえば、NHK大河ドラマ『天地人』の中で、妻夫木聡さんが演じた主人公直江兼続は “直江山城守”と呼ばれていましたね。「『愛』の文字を兜に付けたあの直江兼続が登場するのか!?」と思いきや、“直江山城之助”の名は“種綱”となっています。“謙信の嫡男”である景勝の家臣という設定なので史実からいうと“兼続”ということになりますが…。そう、歌舞伎をあまり史実と関連付けようとすると混乱してしまいます。そもそも八重垣姫という姫も実在しませんし、登場人物の相関関係はかなり史実とは異なります。

 最後に余談ですが、お姫様の大役“三姫”と同じように、歌舞伎の老女の大役に“三婆(さんばばあ ※2)”と言われる役があります。そのうちのひとりが「筍掘り」の勘助と直江山城之助の母、越路(こしじ)。もともと『筍掘り』は『輝虎配膳』が下敷きになっているので、“三婆の越路”については“「輝虎配膳」の越路”とする説もあります。

※1:「呉の国の孟宗が、病気の母親が冬にタケノコが食べたいと言うので、雪の積もる竹林を掘ったところ、地中からタケノコが出てきた」という古代中国の孝行話。孟宗竹という名前はこの故事から命名された。孟宗竹は他のタケノコより早く、まだ雪が残るうちから出てくるという。
※2:三婆は、越路の他には『菅原伝授手習鑑 道明寺』の菅丞相(かんしょうじょう)の伯母覚寿(かくじゅ)、そして『盛綱陣屋』の盛綱と高綱の母、微妙(みみょう)がいる。


文/栄木恵子(編集部)

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