勘九郎が浅草でシネマ歌舞伎『野田版 鼠小僧』を語る

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 9月21日(月・祝)、東京 浅草公会堂で行われた「シネマ歌舞伎『野田版 鼠小僧』inしたコメ」に中村勘九郎と劇作家、演出家の野田秀樹が登場し、上映作品についてのトークを行いました。

 「第8回 したまちコメディ映画祭 in 台東」、通称“したコメ”で、昨年に引き続き行われたシネマ歌舞伎上映。トークイベントでは、この映画祭の総合プロデューサーであるいとうせいこう氏の司会で、ゲストに勘九郎、『野田版 鼠小僧』の作、演出を手がけた野田秀樹、地元浅草の老舗扇子店「文扇堂」の四代目、荒井修氏がステージに登場しました。

中村勘九郎

 まずは、平成15(2003)年の初演当時を振り返り、野田が「20歳頃に、『鼠小僧』の抜粋された脚本を読んで面白かった記憶があり、のちにそれをやろうと(十八世)勘三郎さんと話して、それがちょうどクリスマスの時期だったんです。それで、鼠小僧ってのはサンタクロースみたいだ、ならばクリスマスキャロルの要素を入れよう、けちな棺桶屋で…、とだんだん話ができました」。

 「(野田の歌舞伎演出)1作目の『研辰』が面白かった。だから、『鼠小僧』も、すごいことになるんだろうなと思って、もうわくわくして駆けつけて見ました」と荒井氏が続けます。

 勘九郎は、「『研辰』よりもさらに個々のキャラクターが光っているというか、本当に面白いんですよ。うちの弟(七之助)が演じている、お金が大好きなおしなという娘、僕が七之助の演じた役の中で一番好きな役です。橋之助さん演じる与吉にお金目当てで結婚を迫るシーンで、七之助、扇雀さん、そしてうちの父親たちのやりとりを、稽古に後から合流した橋之助さんが見て、そのパワーに呆然としちゃったのが忘れられない。大好きなシーンです」。

 「(十世)三津五郎のおじ様の演じる大岡様が、ちょっと“おいた”をして奥様に見つかるというシーンで、襖をパーンと開けると、その中でお茶を点ててるんですよ。それを最初に見たときは、本当に笑い転げました。うちの父親も、“寿(三津五郎)、お前、なんなんだそれは!”って」と、舞台の思い出話は尽きません。

「第8回 したまちコメディ映画祭in台東」

 「『研辰』も『鼠小僧』も、群衆が主役みたいな芝居。野田さんが、群衆役の役者さんのところにまで、一人ひとりにダメ出しに行くんです。それを父が見ていて、皆本当に喜んでた、って父はずっと感謝していましたね」と勘九郎が語ると、野田は「(ダメ出しのために)3階まで楽屋の階段を昇るの、大変なんだよ」と、昔の歌舞伎座の様子を思い返しつつ、笑顔を見せました。

 歌舞伎座といえば、独自の舞台機構について、「以前の歌舞伎座は、盆の回るスピードが遅かった。そこを逆手に利用して、盆を途中で止めて長屋のシーンをつくったり、という苦労はありました」と野田が語ると、いとう氏が「そんなことはわからないくらい、ものすごくスピーディーな舞台で、まったく見飽きない」と返します。出演者は出入りが多く、舞台上を駆け回り、「父は、“唯一休めるのが棺桶の中”と言ってましたね」と勘九郎。

 シネマ歌舞伎第一弾となった本作について、「勘三郎さんが“結構面白いよ”と言っていて。その後、映画祭(平成17年9月第43回ニューヨーク映画祭)で上映されたり、そのときつくった英語字幕を生かして、飛行機の機内でも放映されたりした。歌舞伎座の舞台の形が横長で、それを遠くから映した雰囲気が、スクリーンに向いているんですね」と野田。いとう氏も「舞台を映像にするのは難しいけれど、歌舞伎座は合う」とうなずきます。

 今後のシネマ歌舞伎について、三津五郎、勘三郎、時蔵出演の 『喜撰/棒しばり』が来年2月13日(土)に全国52館で公開されることにも触れ、いよいよ『野田版 鼠小僧』の上映となりました。

中村勘九郎

 会場となった浅草公会堂入口には鼠小僧のイラスト入りの寄せ書き用紙が用意され、勘九郎ほか登壇者4名をはじめ、お客様もたくさんのコメントを寄せました。会場の目の前には、勘三郎を模した「鼠小僧の像」。ゆかり深い浅草で『野田版 鼠小僧』が上映された、記念すべき一日となりました。


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「第8回 したまちコメディ映画祭in台東」

2015/09/28