ニュース
「坂東玉三郎特別公演『日本橋』」を語る
12月3日(月)にいよいよ開幕する東京 日生劇場「坂東玉三郎特別公演『日本橋』」。今回、お孝役のほか演出も手がける玉三郎が、作品について語りました。
▼
筋を追わずに見てほしい
物語は日本橋の花柳界を描いてはいますが、「日本橋という題名から、和歌を、詩を書いているのだと思います。鏡花文学の世界を、花柳界を借りて語る――。鏡花先生ってそうなんです」と、玉三郎。
たとえば、医学士の葛木が、生理学教室に飾られた人形に姉の姿を重ね合わせ、思慕の心を語る大事なシーン。「異様な世界だけれど、絵面としてはきれいなんです。閉じ込められた空間の闇の中にあるきらめきというか、鏡花の不思議な組み合わせ。それを、美しいと思える力がないと...」。鏡花の世界、『日本橋』の魅力は、ストーリーを追うだけでは見えないところにあるようです。
そこに千世がいる
お千世役は新人の斎藤菜月。玉三郎が芸術監督を務める太鼓芸能集団「鼓童」から離れ、初めての芝居挑戦となります。「千世そのもの、と僕は思います。先代の(水谷)八重子先生や花柳章太郎先生に及ばないのなら、いっそ、"生"のよさを見せたほうがいい。彼女のせりふは、本当にそう言っているように見えるんです」。実はこの舞台のために、昨年の夏から演技の特訓を重ねていたそうです。
今年5月の御園座、南座『ふるあめりかに袖はぬらさじ』に続き再び玉三郎と共演する松田悟志についても、その5月の舞台と同時進行で、『日本橋』葛木役の稽古をスタート。「若い人を育てたつもりはありません。育てようと思って育つなら、そんな簡単なことはありません。自分次第です」と、若い俳優たちを発奮させるかのように言います。「最終的には、人となりが舞台に出るのですから」。
鏡花の世界を日生劇場に
具体的な舞台設定としては稲葉家、生理学教室のみで、あとは雪、月、ガス燈など象徴的なモチーフを用いたり、照明を工夫して「時空の違うところにしたい」とのこと。観客の想像力をかきたて、鏡花世界へ誘ったところに浮かび上がる主題は「清葉と(葛木の)姉にある」そうです。しかしながら、その姉は登場せず「(能の)夢幻能的な、憧れの女性の形をした魂。つかむと壊れてしまうもの」として表現されます。
一幕ごとに具体的な舞台装置で見せるのではなく、抽象的に構成する日生劇場だからこその演出で、演劇的な面白さを、鏡花世界の魅力を披露する今回の『日本橋』。いよいよ初日の幕が上がります。
▼