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「大阪平成中村座 試演会」で『俊寛』上演
11月19日(木)、大阪城西の丸庭園内 特設劇場にて「大阪平成中村座 試演会」が上演されました。
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大阪では本公演と同様、5年ぶりの開催となった平成中村座の試演会。肌寒い日ながら、一度きりの舞台を前にした名題下俳優たちの熱気、そしてお客様の真剣な眼差しに包まれ、温かな雰囲気のなか『俊寛』の幕が開きます。
中村座の試演会は「くじ引き」で役を決めるのが恒例。俊寛を引き当てた彌風は、「やればやるほど難しく、自分にどれだけ力がないかを思い知らされました」とその重圧を噛み締めていました。瀬尾太郎兼康の獅一、丹波少将成経の彌紋、平判官康頼の翫蔵、海女千鳥の仲弥、丹左衛門尉基康の橋三郎も、お客様からの熱い応援が力になったと感謝を表し、深々と頭を下げました。
終演後の「おたのしみ座談会」では、弟子二人が大役を勤めた彌十郎はもちろん、稽古に立ち会った幹部俳優たちが口々に「自分がやるより緊張した」と、無事の終演に胸をなでおろした様子。一方で、扇雀は「皆本当にプロの役者なんだなと、つくづく感じました」、橋之助は「今日が一番輝いて、素敵でした。自分が忘れていたようなところも多々、あらためて勉強させてもらいました」と語り、充実した成果を感じられる会となったようです。十八世勘三郎が大切にしていた試演会が大阪でも無事復活したことに、勘九郎、七之助はじめ、一同は深い感謝の気持ちを述べました。
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続いての「質問コーナー」ではまず、『狐狸狐狸ばなし』での、扇雀勤める伊之助のはじけた演技が話題に。これまで又市、そしておきわとして「あまりにも強烈」という十八世勘三郎の伊之助を見続けてきた扇雀は、「とにかく、哲明さん(勘三郎)の真似をしたらダメだと思い、死ぬところなども、僕は女方だし、海老反りしてみようかなと…、工夫というか、やっているうちにあのような形になりました」。“扇雀流”の伊之助に、重善を勤めた橋之助も「お世辞でなく、当り役だと言っていいと思います」と太鼓判を押すと、客席からも大きな拍手が贈られました。
橋之助が、大阪平成中村座でぜひ上演したかったという『俊寛』。十七世勘三郎の俊寛に、子どもの頃から憧れていたことを語ります。「大変いいお芝居ですよね。いつかは勘九郎さんもやってくれるものと信じております。僕は俊寛側の立場からしか俊寛を見たことがなかったんですが、今日、獅一君の勤めた瀬尾が素敵だったので、勘九郎さんが初役で俊寛を演じるときは、瀬尾で出たいなと思っております」と期待を込めました。
同じく、十七世との思い出を語ったのは彌十郎。「30余年前、『盲目物語』で、ちょうど今日国生さんが勤めている河内という役でご一緒しました。“のう河内”と呼びかけられて、ハッとうまく応えられず…、ドキッとした覚えがあります」。
勘九郎は、『三升猿曲舞(しかくばしらさるのくせまい)』の最後、舞台背後にそびえる大阪城へ向かい一礼することについて。「初日開いて5日目くらいに、なんだかお辞儀をしたくなってしまったんですよね。役では兵吉という名前ですが藤吉郎は、こののち秀吉になって、このお城を建てる訳ですから。彼の夢、幻想である大阪城に、お辞儀をしたくなって」と、ご当地ならではの特別な演出に触れると、会場からは温かい拍手が沸き起こりました。
『女暫』で初役の巴御前を勤める七之助。舞台番の勘九郎との、幕外での掛け合いもみどころです。「幕外からは巴御前ではなく、中村七之助に寄せています。パッと切り替えたほうが面白いのかなと思いまして。役としては芸者に戻るということなんですが、お客様には兄弟として、楽しんで見ていただきたいと思います」。
亀蔵は『狐狸狐狸ばなし』のおそめで、久々の女方を勤めます。「自分ではすごくきれいに顔をつくってるつもりなんです」とコメントし、会場をどっと沸かせました。新悟は『盲目物語』侍女真弓で、扇雀勤めるお市の方とともに琴を披露。「ここ何年かはお琴の稽古に時間が取れず…、この8月からあらためてお稽古させていただきました」。国生は『俊寛』の丹波少将成経を勤めます。相手役の海女千鳥が公演の前半を新悟、後半を鶴松のダブルキャストであることに触れ、「中日(なかび)で気持ちが変わって、初日と同じくらい緊張しました」。
最年少の虎之介は、この2カ月を国生、鶴松と同じ楽屋で過ごしました。「尊敬する二人の先輩のような役者になりたい」と話し、一同を和ませます。13年前の大阪平成中村座初公演時の出演者でもある歌女之丞は、大阪に3度連続で出演できるうれしさを語りました。鶴松は『俊寛』の海女千鳥について、「5年前の大阪平成中村座で勤め、同じ役を5年後もいただけるということが、本当にありがたいと思います」。
ここで橋之助より、出演俳優それぞれからプレゼントがあることが発表されます。さまざまな席種のある中村座らしく、サイン入りの手ぬぐいや扇子、押隈などが、俳優の誕生日や、好きな数字、家紋にちなんだ席のお客様に贈られました。
和気あいあいの名残惜しい雰囲気のなか、締めくくりの挨拶に立った扇雀が、「特別ゲストをお呼びします。大阪城さんです!」と呼びかけると、客席は大歓声。舞台奥が開き、ライトアップされた大阪城が姿を現しました。城に人影が見えるとの声に、扇雀は「勘三郎さんかもしれませんね」としみじみ。「勘三郎のお兄さんが建てた平成中村座、お兄さんの目に囲まれて、支えられてこうして舞台ができたことを、ありがたく思っております。今後ともよろしくお願いします」と結び、喝采に包まれてのお開きとなりました。