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玉三郎が「世界文化賞」受賞
10月16日(水)、「第31回高松宮殿下記念世界文化賞」の授賞式典が行われ、演劇・映像部門を受賞した坂東玉三郎が出席しました。
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公益財団法人日本美術協会が主催し、世界の優れた芸術家に贈られる「高松宮殿下記念世界文化賞」は、昭和63(1988)年から始まり今年で第31回を迎えました。過去には六世中村歌右衛門(平成7年)、坂田藤十郎(同20年)が受賞しています。
世界の芸術家とともに
現代の歌舞伎を代表する女方としての活躍、海外の芸術家との共同制作や、演出、映画監督など多岐にわたる活動を展開していることが評価されての受賞です。授賞式典に先立ち、15日(水)に行われた合同記者会見で、玉三郎は、これまでともに作品をつくってきたバレエ振付家のモーリス・ペジャール氏や、映画監督のアンジェイ・ワイダ氏らもこの賞を受賞していたことに触れ、「私もここに並ばせていただくということを、大変うれしく光栄に思います」と挨拶しました。
続けて、個別の会見に臨んだ玉三郎。自分自身は「海外で通用するとは思っていなかった」といいますが、過去にはチェロ演奏家のヨーヨー・マ氏や、バレエダンサーのミハエル・バリシニコフ氏ら名だたる芸術家と、多くのコラボレーションを行ってきました。そうしたさまざまな芸術家との交流や作品制作のエピソードを振り返り、彼らがもつ飾らない無垢な心に感銘を受けたと明かします。「自分もそうでありたい。(賞を)いただいても初心を忘れずにいたい、といつも思っています」。
得たものをどう活かすか
海外の多様な芸術と交わりを通して日本の伝統芸能に目を向けたとき、「日本の気候風土のなかで成立した日本の心には、掃き清められた何もないところに何かがやってくる、という趣向がある」こと、そして海外からさまざまな文化が渡来するなかでも「そぎ落とされた芸能」であり続ける背景には、その心があるのではないかということを、再発見したといいます。また、「歴史のなかで磨き上げられてきた様式のみが伝統芸能と誤解しないようにしなければならないし、とはいえ、それをすべて取り払い、作者が描いた心だけむき出しに表現すればいいものでもない。そのせめぎ合いの中で一生暮らしていく」という思いを抱いたと語りました。
そしてこれからの作品づくりについて、「もっと観る人の感性に親切に、とっつきやすく、しかも奥深いというものにしていきたい。そのためにはやはり客観的に見る存在が必要」と述べ、「いただいたものを、精いっぱいやるというのが自分の役目。演出、監修、という言葉では括れないが、そういうことにも力を注ぎたい」と意欲を見せました。
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芸術が未来を照らす
16日(木)の授賞式典では、受賞者の代表として玉三郎が謝辞を述べました。まず歌舞伎について「俳優の肉体を通して連綿と受け継がれてきた、日本の美意識と洗練、そして日本人の精神性が色濃く込められた舞台芸術」であるとし、続けて「脚本のなかに描かれている事柄自体は、人間の愛情であり、業であり、苦悩であり、宿命でもあります。国や民族、宗教を超えた普遍的な人間の物語なのです」と紹介しました。
さらに、海外の芸術家とともに制作活動を行うことについて、「芸術の新たな地平を切り拓くものは、互いに尊愛の念をもちつつ、あらゆる国境や垣根を越え、さまざまな文化が融合したところにあるのではないか」と思いを込めました。最後に、改めて受賞への感謝とともに「芸術が世界中のすべての人たちの未来を照らすものである」という信念を伝えて結びとすると、会場は万雷の拍手に包まれました。