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菊之助、八代目尾上菊五郎襲名披露に向けて

2025年5月、6月に歌舞伎座で行われる、尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎襲名披露「團菊祭五月大歌舞伎」「六月大歌舞伎」に出演する、尾上菊之助が公演に向けての思いを語りました。
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代々の菊五郎が築き繋いできたもの
5月が近づいてくるにつれて緊張感が増してきていると話す菊之助は、「3月31日に神田明神で成功祈願のお練りをさせていただく予定です。一つ一つの行事に臨ませていただきながら、菊五郎の名前に対する思いが深まっていくのを感じております。私もそうですが、同時に六代目菊之助を襲名する倅の丑之助の方が、緊張でいっぱいだと思います」と、自身の襲名への思いを明かしながらも、父親として息子を気に掛けるまなざしをのぞかせます。
名優がそろう歴代の菊五郎の芸を受け継ぎ、八代目はどのような菊五郎を目指すのかを問われると、「初代菊五郎は、女方から始まり、江戸に出て立役に変わりました。その時代は女方と立役の両方を兼ねるのは難しいと言われていたそうですが、初代はそれを成し遂げました。その後、歴代の菊五郎は立役と女方、その両方を研鑚してきました。立役と女方の研鑚は、私も大事にしていきたいです。また、三代目菊五郎は、立役、女方のみならず早替り、仕掛け物を得意とし、それを五代目が磨きあげました。これらの演出を駆使した新古演劇十種の復活にも挑戦していきたいと考えています」と答え、歴代の菊五郎の芸を継承、発展させる意欲を見せます。
五世菊五郎がうみだした世話物については、「五代目、六代目の菊五郎、(二世尾上)松緑のおじさまから、私の父(七代目菊五郎)に伝わってきた芸ですから、これからも大事にしていきたいと思います。江戸の庶民が大事にしていた人情、困っている人を必ず助けるという江戸っ子の心意気を伝えていくのが世話物だと思いますし、それは現代にも大切な心だと思います」と話します。世話物はもちろん、時代物も含めた古典の演目を演じることについては、「お客様へ、昔の人が大事にしていた心をお届けするのが、古典演目を勤める俳優の役目だと考えております。日本人が大事にしてきた心をご覧になったお客様に残せたら…」と、真摯な眼差しで語りました。

大名跡を継ぐことで気づかされるもの
これまでは、歌舞伎界の先輩方に導かれてきたと話す菊之助。「6歳で(六代目)丑之助の初舞台に立ったときも、18歳で(五代目)菊之助を襲名した際にも、先輩方に見守っていただきました。先輩方の背中を見ながら、憧れをもってこの世界に生きてきたからこそ、菊五郎という名前に向き合うことができていると思います。今の自分があるのは、本当に先輩方の愛情のおかげだと思っています」と感謝の思いを明かし、「これからは、倅や後輩たちに、歌舞伎の素晴らしさを伝えられる役者になっていきたい」と、熱い思いを語ります。
父や、祖父(七世尾上梅幸)の指導を思い返すと、「父は、細かく指導するというよりも、考えさせる指導方法でした。そのおかげで、自分はこうなりたいという理想像を高く持ち、努力するという基礎ができました。祖父からは、まだ私が若く至らなかったため、“はい、もう1回、はい、もう1回”とその繰り返しで、それは今思うと型に慣れさせるということだったと思います。また、日本舞踊は肚(はら)で踊るということを教え込まれました」と、時折笑顔をこぼしながら話します。
一方で、自身の息子・丑之助には丁寧に指導しているという菊之助。「連獅子ではないですが、千尋の谷に突き落として這い上がってくるくらいの稽古をしつつ、見守っていきたいと思っております。細かく指導することがいいことかはわからないのですが、心情をとらえ、心情から出てくるお芝居をするように伝えています。芸に終わりはなく、一生かけて磨きあげていくものですので、息子には焦らず長い目で指導していきたいと思っています」と、これから始まる親子二代による襲名興行への決意を語り、締めくくりました。
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八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助襲名披露興行は、歌舞伎座「五月團菊祭大歌舞伎」、「六月大歌舞伎」からはじまります。その後、7月大阪松竹座、10月御園座、12月南座、さらに2026年6月博多座と続く予定です。