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右近が語る、歌舞伎座『春興鏡獅子』

2025年4月3日(木)から始まる歌舞伎座「四月大歌舞伎」夜の部『春興鏡獅子』に出演の尾上右近が、公演に向けての思いを語りました。
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人生のルーツとなる作品
「あふれる思いを胸に、全身全霊で臨みたいと思っております。3歳のときにこの『春興鏡獅子』に魅了され、今年で30年となります。初舞台から25年、尾上右近襲名から20年、そして自主公演で『春興鏡獅子』小姓弥生、獅子の精を勤めてから10年。幾重もの節目が重なった今年、私の生きる意味と言っても過言ではない演目を歌舞伎座でやらせていただけることに、ついに、ようやく、という両方の気持ちが込み上げています」と、目を輝かせながら語る右近。
「小津安二郎監督が撮影された曽祖父(六代目尾上菊五郎)の『鏡獅子』を映像で初めて見たとき、小姓弥生の女方の踊りが、たおやかで、可憐で、弥生はずっとそのイメージのままです。後シテで獅子になって登場すると、まさに勇猛果敢な神様の遣いそのもの。毛振りの力強さには神々しさを感じました。生まれて初めて見た歌舞伎でしたので、この舞台に立つ方がひいおじいさんなのだということ、弥生と獅子のギャップ、すべてに心が震えました。目指してできるものなら、やりたい、と思ってお稽古を始めたのが人生のルーツで、すべての始まりといえる瞬間でした」と、熱い思いを口にし、作品との出会いを振り返ります。

感謝の気持ちを踊りに
「女性の優美な舞踊から勇ましい獅子への変化が一番重要で、女方、立役、どちらの表現も身体に入っていないとできないお役であることが大きな特徴です。小姓弥生は限られた空間の中で衣裳替えもなく、自分の舞のみでお殿様を魅了する様子が描かれますので、さまざまな情景が広がるよう踊ることを心がけています。獅子に関しては、とにかく快活に活発に。“突然江戸城に現れた神の遣い”である存在感を感じていただけるよう、派手さを意識して踊りたいです。先輩たちの『春興鏡獅子』への憧れは尽きませんが、前回の自主公演では自分の体格や骨格と役のすり合わせも必要だと感じましたので、向き合っていきたいです」と、課題も分析します。
「上演が決まったときは、お世話になっている先輩方、とりわけ師匠の(七代目尾上)菊五郎のおじさまには、一番にご報告させていただきました。楽屋にご挨拶行ったときに“頑張ってね。一所懸命踊ってね”という言葉をいただいたことが、本当にうれしくて。先輩方への感謝の気持ちを、踊りに込めて表現したいと思います」。今回、胡蝶の精を演じるのは、坂東亀三郎と尾上眞秀です。「六代目菊五郎の鏡獅子に胡蝶の精で出演経験のある祖母から、私も幼少期に踊りの指導を受けました。稽古では胡蝶の精を演じる二人にも、どう表現していくか、具体的なことを伝えています。自分もいつか鏡獅子が踊りたいと思ってもらえたら」と、期待を口にします。
“役者子供”でいること
「最近は、六代目菊五郎について調べるなかで出会った“役者子供”という言葉が気に入っています。勉強も修行も好奇心をもって取り組み、ある意味、青臭くいるという意味の言葉ではないでしょうか。芸の道においては、一つの芸に魂を込め、そこから研ぎ澄まされた人間性を育んでいく、“役者子供”でいたいと思います。小津監督の『鏡獅子』は、月に20回くらい、ずっと見続けています。技術や経験値はもちろん、六代目菊五郎の魂のまっすぐさ、純度の高さに心を打たれますが、それは人が幼い頃からもつ、変わらない本質的な輝きだと思います。自分も純粋さを胸に、舞台に臨みたいです」。
「この公演は、自分なりの『春興鏡獅子』を追求していく第一歩です。でも、そのうちこうしたい、という願望だけではいけないと思いますので、初日には完成形に到達している気概で臨みます。自主公演から歌舞伎座へ、ある種の“飛び級”ではありますので、そのことを肝に銘じ、歌舞伎の長い歴史のなかでこうして機会をいただいたからには、然るべき出来栄えのものをお見せしたいと思います」と、決意を滲ませながら語りました。
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歌舞伎座「四月大歌舞伎」は4月3日(木)~25日(金)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で発売中です。