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歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」初日開幕

歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」初日開幕

 

 2025年10月1日(水)、歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」の初日が幕を開けました。

【大きなサイズの舞台写真は、ページ下部でご覧いただけます】

 『義経千本桜』「鳥居前」市川團子

 A・Bプログラムで配役を変え、昼夜通して上演される『義経千本桜』。初日はAプロで幕を開けました。第一部の幕開きは「鳥居前」です。兄・源頼朝の疑念により、都を落ち延びる源義経(巳之助/歌昇)の旅立ちを前に、伏見稲荷の鳥居前では、静御前(笑也/左近)が同行を願い出ますが、切なる願いも届かず…。梅の木に縛られた静の危機を、忠信実は源九郎狐(團子/尾上右近)が姿を現し救います。初役で狐忠信を勤める團子が花道から登場すると、場内からは割れんばかりの拍手と「澤瀉屋!」の大向うが響きます。幕切れでは、狐忠信の“狐六法”での花道の引っ込みに、場内は大きな感嘆で包まれました。

 

 『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」中村隼人

 『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」左より、守田緒兜、坂東巳之助

 

 

 続く「渡海屋」では、相模五郎(坂東亀蔵/松緑)と入江丹蔵(松緑/坂東亀蔵)が義経(巳之助/歌昇)を追うための船を用意するよう迫ります。主人・銀平が留守のため応じるのは女房のお柳(孝太郎)。そのとき、颯爽と船頭姿の銀平(隼人/巳之助)が戻り、力強く二人を追い払います。そして相模たちの"魚尽くし"のせりふは洒落味に富み、場内を笑いで包みました。義経主従が去ると、お柳は娘のお安(Aプロ:守田緒兜)を呼び寄せます。やがて銀平が白糸縅の鎧姿で現れ、実は平知盛であることを明かし、物語は大きな転換を迎えます。第一部の最後、「大物浦」では、典侍の局となったお柳が帝を守る乳母としての気品と覚悟を示します。そこへ再び相模・入江が登場し、舞台は一層の緊張感に包まれます。満身創痍の知盛が壮絶な立廻りを繰り広げ、客席も熱が高まります。巳之助と長男・緒兜が親子共演を果たし、初お目見得の緒兜の台詞に客席は聞き入り、温かい拍手に包まれました。大役を勤めた隼人が大碇を担いで海へと沈む姿に観客は息を呑み、第一部は圧倒的な迫力のうちに幕を閉じました。

 『義経千本桜』「木の実・小金吾討死」左より、中村種之助、中村秀乃介、尾上松緑

 『義経千本桜』「木の実・小金吾討死」坂東新悟

 

 

 第二部の幕開きは「木の実」から。大和国吉野下市村の茶店で、親切ごかしに若葉の内侍(魁春/門之助)と嫡子の六代君(種太郎/陽喜)、家来の主馬小金吾(新悟/左近)に近づいた権太(松緑/仁左衛門)は、鮮やかに小悪党の本性をあらわし、金を巻き上げます。悪事を働く権太ですが、女房の小せん(種之助/孝太郎)と息子の善太郎(秀乃介/夏喜)に見せる姿は愛情にあふれます。この場面が、のちに起きる悲劇の伏線となるところも見逃せません。「小金吾討死」では、小金吾が大勢の捕手たちとの立廻りを勇ましく披露。そして舞台は、世事に翻弄される庶民の哀切が胸に響く名場面「すし屋」へと繋がります。

 

 『義経千本桜』「すし屋」尾上松緑

 大和国下市村の釣瓶鮓屋を舞台にした「すし屋」は、奉公する弥助(萬壽)と弥左衛門(橘太郎/歌六)の娘のお里(左近/米吉)が祝言を挙げることになった場面から始まります。お里は田舎娘の大胆さと可愛さを、弥助は典型的な「やつし」の役柄で和事の柔らかみをみせます。二人の仲睦まじいやりとりに客席からは笑みがこぼれ、多幸感が歌舞伎座の空間を充たします。そこへ姿を現したのは、勘当の身である権太(松緑/仁左衛門)。母おくら(齊入/お米:梅花)から金をだまし取る、可笑しみあるやりとりで、“いがみ”と二つ名の付く悪党ながらもどこか憎めない魅力があふれ、観客の心を掴みます。母に甘える姿には客席から笑みがこぼれる一方、ある決意をした権太がすし桶を抱えて花道を引っ込む場面は緊迫感が広がり、緩急ある展開に。家を勘当された権太が、父・弥左衛門に抱く本心が涙を誘い、家族の情愛が心に沁みる名作に、鳴りやまない拍手が送られました。

 『義経千本桜』「吉野山」左より、市川團子、坂東新悟

 第三部は『吉野山』で幕が開きます。静御前(新悟/米吉)が、供をする佐藤忠信(團子/尾上右近)とともに恋人の義経のもとへ向かう様子を舞踊で表現します。姿が見えない忠信を呼ぼうと初音の鼓を打つと、どこからともなく忠信が姿を現します。ゆかりの鼓と鎧を見ては義経を思い、忠信の兄・継信が義経の盾となって討死した様子を忠信が物語ると涙に暮れる二人。そして義経がいる川連法眼の館を目指し再び歩み始めるのでした。舞台中央の浅葱幕が振り落とされると美しい舞台が広がり、劇場は一瞬にして満開の桜に包まれます。旅支度の静御前が桜を眺めながら美しく舞うと、まるで春風の香りを感じるような空間に包まれ、観客もうっとり。忠信が源平の合戦の様子を踊りで表現する“軍物語”は、竹本と清元との掛け合いでその様子を勇壮に見せ、場内を沸かしました。

 

 『義経千本桜』「川連法眼館」左より、坂東新悟、市川團子、中村梅玉

 続く『川連法眼館』は、通称「四の切」で親しまれる人気作です。舞台は、都を落ち延びた源義経(梅玉)が匿われる吉野山の川連法眼館。幕が開くと、川連法眼(寿猿/橘三郎)と妻飛鳥(東蔵/歌女之丞)が義経への思いを話しています。そこへ佐藤忠信(團子/尾上右近)が現れ、義経は伏見稲荷に預けた静御前(新悟/米吉)の安否を尋ねます。しかし覚えがないという忠信を不審に思った義経はその詮議を求めますが…。後半のみどころである初音の鼓をめぐる場面では、忠信の姿に化けていた源九郎狐(團子/尾上右近)がその正体を現し、狐の神秘性を描く独特な“狐詞”や、早替りの「毛縫い」と呼ばれる衣裳替えなど、次々と見せ場を披露して観客を魅了します。Aプロでは「三代猿之助四十八撰の内」として上演され、狐忠信を初めて勤める團子の活躍に客席も盛り上がり、最後に鼓を携えて宙乗りをする姿には割れんばかりの大きな拍手が送られました。

歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」初日開幕

 

 歌舞伎座地下2階の木挽町広場(かおみせ)では、10月期間限定で老舗店の銘菓を特別販売いたします。観劇の際はぜひお立ち寄りください。

 

 歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」は、21日(火)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

 

※「澤瀉屋」の「瀉」のつくりは、正しくは“わかんむり”です

 

 

歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」初日開幕

『義経千本桜』「鳥居前」市川團子

歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」初日開幕

『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」中村隼人

歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」初日開幕

『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」左より、守田緒兜、坂東巳之助

歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」初日開幕

『義経千本桜』「木の実・小金吾討死」左より、中村種之助、中村秀乃介、尾上松緑

歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」初日開幕

『義経千本桜』「木の実・小金吾討死」坂東新悟

歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」初日開幕

『義経千本桜』「すし屋」尾上松緑

歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」初日開幕

『義経千本桜』「吉野山」左より、市川團子、坂東新悟

歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」初日開幕

『義経千本桜』「川連法眼館」左より、坂東新悟、市川團子、中村梅玉

2025/10/06