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シネマ歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』を野田秀樹が語る

シネマ歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』を野田秀樹が語る

 4月5日(金)全国公開となる新作シネマ歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』について、作・演出の野田秀樹が語りました。

―― 『野田版 桜の森の満開の下』は歌舞伎座で、一昨年の8月に初演されました。チラシに寄せられた一文によると、始まりは1998年のワークショップだったそうですね。

 お正月に歌舞伎俳優と現代劇の俳優が集まってワークショップをやりました。2001年に『野田版 研辰の討たれ』を上演し、次は『桜の森~』で、という感じだったんですけど、一度は立ち消えになりました。それからだいぶ経って再びやろうという話が出たとき勘三郎が、もう自分は耳男をやらずにヒダの王をやって、若い者にやらせたほうがいい、と言っていた記憶があります。そこからもっと時間が経ってからの上演になりました。

 

―― 具体的に動き出したのはいつ頃でしょうか。

 『足跡姫』(2017年1月東京芸術劇場)のときにはもう上演が決まっていたので、その前ですね。パソコンには書き終えていない『桜の森~』があって、いつかやろうかなと思っていました。それを引っ張り出してみたら、すでにすべてを七五調でやろうと決めていて、3分の1くらいは書いてあったと思います。たしか、古代遊園地のあたりまで。

 

 遊園地って歌舞伎にどうなんだろうと考えて、全カットしたほうがいいのか、むしろこういう場面こそ歌舞伎なのか?歌舞伎ってこういうのを平気でやっていいんだなと。そして、 “狭き門”を“セ・巻物”にしようと思ったところで、うん、歌舞伎でやはりいけるかも、と思いました。

 

シネマ歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』を野田秀樹が語る

―― 稽古場の様子はいかがでしたか。

 稽古初日の前に、勘九郎と七之助に食事に誘われました。僕が店の扉を開けた瞬間、ふっと目が合った二人の第一声が「無理です」。「最初のシーンなんか、歌舞伎役者、絶対やれないですよ、野田さんが使っているアンサンブルと全然違うんですから」と言うので、「でもね、僕の芝居やっているときに役者さんたち、最初はだいたい、まったくわかんないって言うよ、台本を読んでいくうちにわかるって言うよ、大丈夫だよ」と、自分で言いながらすごく不安になりました(笑)。

 

 確かに『研辰』とか『鼠小僧』の台本と比べると、時系列的にこそ飛ばないけれど、間に出てくる鬼たちは何物ぞ、等々、いろいろな飛躍があったかもしれません。歌舞伎には荒唐無稽で変わった世界がよく出てくるのに、古典歌舞伎ではないと思ったとたんに、「えっ」と感じてしまうんでしょう。でも、稽古をやり始めたらそんな不安はどこへやら、一気でした。

 

 オープニングなど実際のシーンを見せると、ああ、こういうことかと。言葉だけではわからなかったことが、そういうことかと、歌舞伎役者はぱっとわかるんです。所作ひとつとっても彼らの何十年と培われたものがびしっと見える。型というのは、まさに歌舞伎なんだなと。夜長姫と耳男の最後のシーンなどは極めつけで、もともと歌舞伎のためにつくられたような場面になりました。

 

―― 歌舞伎として上演されてみていかがでしたか。

 夜長姫が女方であることが、大きな肝ですね。歌舞伎における恋愛は男女の生々しさがないことで、ある意味、逆になまめかしかったりもするわけですが、今回は生々しさにフィルターがかかり、構造がはっきりしたんです。坂口安吾の原作を読むと、夜長姫はサディストです。七之助がエナコの首に縄をかけて引っ張ってくるところなんて本当にひどい(笑)。それは七之助という俳優の特性によるところも大きい。

 

 対照的に勘九郎の、怪我しようがなにしようがやるというマゾ的なところがまた、耳男という役と密に関係していてよかった。幸四郎も、「そうそう皇子ってこういうことでしょ、これが皇子だ!」と思いながら見ていました。猿弥を見て、「マナコってこんなに大事な役だったんだ」と言った人もいました。耳男との友情がよく見えましたよね。役者さんたちがほんと、皆よかった。

 

―― お話をうかがっていると、また観たくなります。シネマ歌舞伎の公開が待ち遠しいです。

 シネマ歌舞伎を観て面白いと思った人は、ぜひ次は劇場に生の舞台を観に来て欲しいですね。またすでに歌舞伎座で観ている人も映画館のスクリーンで観ることで、新しい発見があると思います。何回か見ると違って見える。そのときの人生の視点が違っていると違って見える。この作品はそういうふうにできていますから。

 

シネマ歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』を野田秀樹が語る

 チラシ裏面の野田の一文「薨りし後の夢」はこちら

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新作シネマ歌舞伎

『野田版 桜の森の満開の下』 

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公開

2019年4月5日(金)

東劇新宿ピカデリーほか全国公開

上映館はこちら

 

上映時間

2時間13分

 

料金(税込)

一般:2,100円 学生・小人:1,500円

 

 

シネマ歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』特設サイト

シネマ歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』作品詳細

「シネマ歌舞伎」公式サイト

2019/04/04