歌舞伎いろは

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歌舞伎座「七月大歌舞伎」『盲長屋梅加賀鳶』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 二代目 市川齊入

何度も出演している思い出深い『加賀鳶』

 ――『加賀鳶』の「木戸前」の鳶は何度も演じられていますが、思い出はおありですか。

 鳶たちが次々にせりふを言う、ツラネは肝試しみたいなところがございます。『白浪五人男』の「稲瀬川勢揃い」のほうが、合方(三味線の下座音楽)がゆっくりな分だけ気分的に楽です。木戸前のツラネは、合方が速いので、急かされているようになり、緊張で足が震える人もいました。

 鳶の最初のほうでしたら、まだよろしいのですが、後のほうになるとせりふがこうだったか、ああだったかと頭の中で繰っているうちに、わかっていても言葉が出てこないような気がするときがあるんですよ。

 ――道玄とお兼にいじめられるお朝、道玄の女房のおせつも演じられています。

 もうひと役、松蔵の妹のお竹も、(七世市川)門之助兄さんの代役で勤めました(昭和50年1月国立劇場)。本役は鳶の愛染初五郎でしたが、門之助兄さんが急病になられ、国立の制作から当日、代役をと言われました。「梅吉内」という目にない場面で、せりふも30ぐらいあるので、ドキドキしました。(二世)松緑のおじさんの梅吉、菊五郎兄さんの巳之助、(十二世)團十郎の旦那のお民でした。

 実は、前日の昼公演で劇場に行くバスの中で門之助兄さんとご一緒し、翌月のお芝居を「教えてあげるよ」「よろしくお願いいたします」と会話していたのに、尿道結石になられたのです。兄さんが復帰されるまで、6回ぐらい代わらせていただきました。

歌舞伎座「七月大歌舞伎」

平成29年7月3日(月)~27日(木)

盲長屋梅加賀鳶『加賀鳶』
本郷木戸前勢揃いより 赤門捕物まで

天神町梅吉/
竹垣道玄
市川  海老蔵
日蔭町松蔵 市川  中 車
春木町巳之助 市川  右團次
魁勇次 市川  男女蔵
虎屋竹五郎 中村  亀 鶴
昼ッ子尾之吉 坂東  巳之助
磐石石松 大谷  廣 松
お朝 中村  児太郎
数珠玉房吉 市川  男 寅
御守殿門次 市川  九團次
道玄女房おせつ 市川  笑三郎
金助町兼五郎 片岡  市 蔵
妻恋音吉 河原崎 権十郎
天狗杉松 坂東  秀 調
伊勢屋与兵衛 市村  家 橘
御神輿弥太郎 市川  團 蔵
女按摩お兼 右之助改め 市川  齊 入
雷五郎次 市川  左團次

すべてを捨てて新しく芝居をする

 ――思い出が尽きない『加賀鳶』ですね。

 お朝を演じたのは平成元(1989)年3月の歌舞伎座。娘方ですが、私は41歳でしたからちょっと照れました。道玄は天王寺屋の兄さんで(五世中村富十郎)、松緑のおじさんの監修でした。おせつは平成22(2010)年10月の新橋演舞場で、團十郎の旦那の道玄で勤めました。團十郎の旦那は松緑のおじさんそっくりでした。

 鳶の昼っ子尾之吉も、お朝も、急遽代わったお竹も、加賀鳶のお役のほとんどは(六世尾上)菊蔵兄さんに教えていただきました。

 ――『加賀鳶』に限らず、幅広いお役をなさっていらっしゃいますが、演じるときの心構えみたいなものはございますでしょうか。

 20代の頃、歌右衛門のおじさんに「お前さんの芝居にはコクがないんだよ」と言われました。そのときは言葉の意味がわかりませんでしたが、あとから考えると、習ったとおりに演じるだけで自分というものがないんだよ、ということだったのだと思います。

 また、40代の終わり頃に、團十郎の旦那から、「今までやってきたものを全部捨てて新しく芝居をしなさい」と言っていただきました。衝撃を受けました。私たちは先人のお芝居から学ばせていただくのですが、ただの人真似になってしまって面白くないということでしょうね。なかなかうまくまいりませんが、お二人からのお言葉が、その後の勉強におおいなる助けとなりました。感謝いたしております。

ようこそ歌舞伎へ

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