歌舞伎いろは

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歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」『極付幡随長兵衛』『ひらかな盛衰記』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村歌六

喜怒哀楽がストレートに出る権四郎

 ――『ひらかな盛衰記』「逆櫓」の権四郎は平成20(2008)年9月に初役で演じられ、今回が2度目になります。

 初代(吉右衛門)さんも、(初世松本)白鸚のおじさんの松右衛門で権四郎をなさっています(昭和24年9月東京劇場ほか)。秀山祭で秀山様(初代吉右衛門)がなさったお役をさせていただくのが一番うれしいです。それまでは、ご縁のない狂言で、出演は前回が初めてでした。

 ――権四郎は、樋口次郎兼光という武将である松右衛門を、それと知らずに娘およしの婿とし、さらに孫の槌松を若君の駒若丸と取り違えられ、とり巻く状況が刻々と変化していきます。

 できのいい婿さんが来て、すぐに逆櫓の技を覚え、源義経の船頭を命じられるまでに出世してくれた。そこへまた、お筆が来て、これで行方不明の孫の槌松が帰ってくると喜んだわけです。権四郎が、槌松が遊んでいたはずの人形を手に取ると、首がぽろっと落ちます。槌松が既に殺されている、というのを暗示した演出ですが、よくできていますよね。

 ――権四郎の気持ちの変化を順を追ってお話いただけますでしょうか。

 取り替え子を、こちらが大事にすれば、向こうも槌松を大切にしてくれるだろうと怪我もさせないように育ててきた。その槌松が殺されていたというのは、相当なショックですよね。それで、こちらも取り替え子を殺すと口にします。権四郎は喜怒哀楽がストレートです。松右衛門が駒若丸であった槌松を抱えて登場し、「権四郎、頭が高い」と言われ、最初はびっくりします。

 話を聞けば、納得せざるを得ない。樋口という侍の婿がいる親としては侍も同然、泣くわけにはいかないだろうと思い定めるのが切ないです。そんなことはない、「泣いてもいいんだ」と樋口に言われ、「ありようはさっきにからそうしたかった」と笈摺(おいずる。巡礼者が羽織る袖のない衣)を抱いて本心を吐露し、泣き崩れます。

 人間的です。わかりやすく運んでいけば、ドラマが成立しますが、責任は重大です。

歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」

平成29年9月1日(金)~25日(月)

『ひらかな盛衰記』「逆櫓」

船頭松右衛門
実は樋口次郎兼光
中村  吉右衛門
漁師権四郎 中村  歌 六
お筆 中村  雀右衛門
船頭明神丸富蔵 中村  又五郎
同 灘吉九郎作 中村  錦之助
同 日吉丸又六 中村  松 江
松右衛門女房およし 中村  東 蔵
畠山重忠 市川  左團次

一本筋の通ったお爺さん

 ――『伊賀越道中双六』の「沼津」の平作、「岡崎」の幸兵衛、老け役の大役を演じられることが増えています。

 義太夫狂言の年寄りは爺にしろ、婆にしろ大きな役が多いんです。権四郎は、ずっと舞台にいてしゃべっているので持続力がいります。樋口を訴人してからの「浜辺」でもうひと山来ます。若君を助けなければいけない樋口の気持ちを汲み、だからあえて訴人をする。?気じゃないですかね。死ぬ気でいるだろう樋口を犠牲にして若君を助ける。そのためには、それぐらいの嘘をつかないと誰も信用してはくれないからでしょう。一本筋の通ったお爺さんです。

 ――東蔵さんが娘のおよしですね。

 最近、東蔵のお兄さんとの夫婦が多いんです。「岡崎」の幸兵衛とおつや、『傾城反魂香』の土佐将監夫婦、『摂州合邦辻』の合邦道心とおとく。お兄さんはお若いから普通に考えれば大丈夫なのですが、これまでの役のイメージで「夫婦」と思われるお客様がいらっしゃると難しくなります。ですから声を大にして、東蔵兄さんは娘です、と申し上げたいです(笑)。

『ひらかな盛衰記』「逆櫓」(ひらかなせいすいき さかろ)

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平成20年9月歌舞伎座
(C)松竹株式会社

 摂州の船頭松右衛門の家では、父の権四郎らが娘およしの前夫、松右衛門の回向をしていました。そこへ、入り婿で名も同じ松右衛門が、梶原様から義経の船の船頭に任じられたと喜んで帰ってきます。しばらくして、今度はお筆と名のる女中が訪ねてきました。権四郎は巡礼の折、およしの子槌松と取り違えた子を大事に育てていましたが、お筆は取り違えた槌松は死に、その笈摺を頼りに探し当てて来たので、子を返してほしいと言います。権四郎は首をとって孫の敵をと息巻きますが、その子は木曽義仲のご公達、自分は遺臣の樋口次郎兼光だと明かした松右衛門は、大恩ある主君の若君、たとえ親父様の敵でも討たせられないと語ります。

 やがて日が暮れ、松右衛門として逆櫓の稽古に出かけますが、正体を知る船頭たちに裏切られ、梶原勢に打ちかかられる樋口。権四郎の訴人により畠山重忠も現れますが、権四郎の配慮を知った樋口は、智勇兼備の重忠の言葉に従って縄にかかるのでした。

ようこそ歌舞伎へ

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