左:ロータス・ロゼットのモチーフの唐草文様、アッシリア、紀元前7世紀ごろ。右:菊牡丹唐草、日本、江戸時代

渡来したモダンデザイン

高野「唐草文様はタイルデザインのオリジンでもありますね。古くはエジプト、メソポタミア時代の建造物からも植物文様は発見されています」

伊藤「植物文様のタイルでよく知られているのはイスラム建築のモスクですね。植物が伸び育ってゆく姿に強い生命観を見いだし、装飾として発展したのです。そのデザインがシルクロードを経て日本に伝わったのが飛鳥時代」

高野「正倉院には、唐草文様が施された調度品が多く残されていますね」

伊藤「日本での文様の発展は非常に面白いんです。大陸から渡ってきた唐草をパターンとして受け継ぎながら、歌舞伎の衣裳や大道具に観られるように桜や桐といった四季の花をデザインし発展させてゆきます」

 日本の文様の歴史は、はるか縄文時代に遡ると言われます。

 土肌に縄で模様をつけ、燃え盛る炎の生命力を凝縮させた縄文土器。それも生活の中に生命の強さを同居させる古代人の美意識と信仰から生まれたものでした。

 時代は流れて飛鳥時代。中国から伝来した唐草文様は、当時の日本人にモダンデザインとして受け入れられ、イマジネーションに大きな刺激を与えたと言います。


 文様はいかに誕生して、どう伝わったのか。伊藤さんと高野さんのお話を伺っていると、そこには驚きの共通点がありました。

高野「先ほどイスラムのモスクを彩るタイルに植物文様のルーツがあると言いましたが、タイルもエジプト時代にルーツがあります。石造りの巨大神殿からはブルーに焼成したタイルで門や壁を飾っていた跡が発見されています」

伊藤「唐草に象徴される文様はシルクロード沿いに中国や朝鮮を経て日本に伝わるのですが、タイルも同じ道をたどって日本に入ってきているんですよね」

高野「その通りです」

― 文様の発展とタイル。ふたつにはどのような関連性があるのでしょうか?

伊藤「最古の建材といえるタイルは、その土地の土とその場所らしい文様で彩られ建築物とともに歴史を歩んできました。タイルの発展が文様の進化をもたらし、文様の展開がタイルの表情を豊かにしてゆくという相互関係が繰り返されてきたのです」

多彩草花文タイルトルコ・イズニック/16世紀


歌舞伎文様考

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