『日本製マジョリカタイル』(株)INAXライブミュージアム蔵

一枚のタイルの物語 『日本製マジョリカタイル』

 古くはエジプト、メソポタミアの建造物にもその存在が確認されている文様。
 人類が歩んで来た長い歴史の中で、文様はそれ自体が生命を持つがごとく、長く茎葉を伸ばし世界中に広がってきました。その文様の歴史に欠かせないのがタイルを中心とした陶板です。

 今回はINAXのタイル博物館に所蔵されている貴重な作品の中から、『日本製マジョリカタイル』をご紹介します。

 今回はINAXのタイル博物館に所蔵されている貴重な作品の中から、『日本製マジョリカタイル』をご紹介します。

 マジョリカというと、イタリアを代表する錫釉色絵陶器(すずゆういろえとうき)の総称としてのマジョリカ陶器を思い浮かべる方も多いかと思いますが、今回紹介するマジョリカタイルはそれとは違った意味合いで用いられています。明治時代の終わり、日本においてヴィクトリアンタイルの国産化が本格化し、粉体プレス成形で、釉薬の色合いが混じることのないように表面に凹凸をつけたタイルが大量に作られました。このタイルをイギリスでの呼び名に倣って、マジョリカタイルと呼んだのです。

 表面に凹凸をつけて釉薬の色合いが混ざらないような工夫をしたのは、8世紀から15世紀までヨーロッパのイベリア半島を統治していたイスラム教徒のムーア人でした。イスラム教の欧州進出とともにイベリア半島に移住した彼らは、イスラム建築物を築く中で、当初、従来の建築様式に従い様々な形をしたモザイクタイルを使って壁を埋めつくしました。一辺が1〜3cmの大きさのタイルで壁を埋め尽くすわけですからその施工には莫大な労力と時間が必要であったと推測します。この効率化を進めるために考え出されたのが、一辺13〜15cmの正方形のタイルの表面に凹凸をつけ、モザイクパターンを表現する方法でした。このタイルを複数枚(多くは4枚)組み合わせることで大きな一つのパターンを表現したのです。 イベリア半島で生まれた凹凸による色分割の手法と組み合わせで模様パターンを表現しているこのタイルは、日本で考えられたデザインではありながら、どことなくイスラム的な幾何学パターンの面白さを連想させます。

文:愛知県常滑市INAXライブミュージアムものづくり工房後藤泰男

歌舞伎文様考

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