歌舞伎文様考
『鑷 けぬき』「十八番の内 粂寺弾正」。
三世歌川豊国画(嘉永5年 1855年)国立国会図書館所蔵。無断転載禁
『毛抜』粂寺弾正の衣裳。亀甲牡丹紋の着付に海老の意匠の裃。当代團十郎も、そして昨年1月に海老蔵が演じた時もこの意匠。
『毛抜』粂寺弾正の衣裳。白の着付に碁盤模様の意匠の裃。当代左團次も、そして平成16年1月に男女蔵が演じた時もこの意匠。
シルクロードを経て日本に伝わった亀甲文様
まずは、歌舞伎でおなじみの演目に登場する人物が纏う「亀甲文様」の衣裳をご覧いただきましょう。上級武士の威厳が光る役柄、身分の高い役柄と様々な人物の衣裳に見られる文様は、『歌舞伎味』を感じさせる華やかさ、勇壮さを舞台に添えます。
『毛抜』粂寺弾正(くめでらだんじょう)の亀甲牡丹文
主人の許嫁である姫君が患った、髪の毛が逆立つ奇病の原因を見事に見抜くヒーローとしておなじみの『毛抜(※)』の粂寺弾正。名家に仕える武士としての品格と勇壮さ、風格を大柄な亀甲文様の衣裳が引き立てています。また、大柄の亀甲に牡丹があしらわれている文様は、高位の武士ながらも館に勤める若衆や腰元をからかうなど、愛嬌のある役柄を引き立てているようにも思えます。
粂寺弾正の衣裳は、演じる俳優によってそれぞれ異なります。市川團十郎家の俳優が弾正を勤める際には、十一代目團十郎が錦絵をもとに考案した亀甲文様の着付に寿の字海老の裃という華やかな衣裳で演じました。その他の家の俳優が弾正を勤める際には、二代目市川左團次が同じく錦絵から考案した白の着付に碁盤模様の裃の衣裳を用います。
※『毛抜』
寛延2年(1742年)、大坂佐渡島長五郎座で初演。江戸時代に上演が絶えましたが、明治42年(1909年)に二代目左團次が復活して好評を博し、人気演目となりました。また昭和38年(1963年)には、十一代目團十郎が原作に立ち戻り、荒事味を加味した台本で上演しました。現行台本は、二代目左團次が復活した台本と、十一代目團十郎が復活した台本の2種があり、ここで触れた衣裳だけでなく、その演出にも違いがあります。
歌舞伎文様考
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