亀甲文様色々

「熊谷陣屋」の熊谷直実の衣裳

幸運を祈る文様と、亀の甲羅の深い関係

 亀甲文様は松竹梅や宝尽しと同様、世界を祝い、幸運を祈る吉祥文様です。 正六角形を基本としながら花菱や寿字といった他の文様を組み込むこともあれば、着物の地文として使われることもあります。

  平安時代以降、気品ある有職文様として錦や綾に多用されたこの文様は、近世になると武家や庶民にも普及し、祝い事の小袖や打掛にも使われるようになりました。  「鶴は千年、亀は万年」と言われるように、亀甲の中に鶴が描かれて長寿を表す文様もあります。 長寿を象徴する動物としておなじみの亀と鶴。そのルーツは中国の伝説にあります。中国東海にある伝説の島、蓬莱山。仙人が住み不死の薬があると言われたこの島に住む動物が鶴と亀と言われたのです。中国の伝統的な絵画には、蓬莱山(ほうらいさん)を背に乗せて大海を遊泳する巨大な亀の姿も見られます。

 中国では、亀は特別な霊獣として尊重されました。殷の時代、人間が天の声を聞き取り、未来を占う道具に使われたのが亀の甲羅です。
 人々は甲羅を火で焼き、水を掛けて生じた亀裂の様相から国家や時代の行く末を占ったのです。このひび割れの様から漢字が生まれたとも言われています。

 古くからある亀甲文様は、時とともにデザインの幅を広げてきました。漢字や動物、植物との組み合わせ、モチーフとして何重にも重ねたり、連続したり…様々な組み合わせと変形を加えられ、幸福や長寿を祈る文様として生活の中で生き続けてきたのです。
 歌舞伎の時代物の錦織の衣裳には雲龍や牡丹、唐草などと亀甲を組み合わせた文様がありますが、『毛抜』の粂寺弾正の亀甲牡丹文や『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき) 熊谷陣屋(くまがいじんや)』の熊谷直実(くまがいなおざね)の亀甲花菱文のように勇ましさや力強さを表すことも多いようです。亀甲文様は、甲冑(かっちゅう)のようにも見えて、武者や勇者といった男性的な役柄をうまく引き立てているように感じます。



歌舞伎文様考

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