『仮名手本忠臣蔵 祗園一力茶屋の場』 お軽の衣裳 浅葱色の帯には、正六角形を変形させて連続させた「麻の葉崩し文様」があしらわれている。

『火の見櫓の八百屋お七』三世歌川豊国画 国立国会図書館所蔵。無断転載禁 

麻の葉から生まれた多彩なヴァリエーション

 麻は丈夫ですくすくと育つ植物です。そこから古の日本人は、麻の葉文様を子供の産着に用い、健やかな成長を祈りました。それは現代でも同様で、私たちにとってとても身近な文様です。
 しかし何といってもこの文様は、女性の襦絆(じゅばん)や帯、袋小物に特に好まれ、絞り染めで鹿の子に白抜きされた麻の葉鹿の子は艶やかな女らしさを際立たせる文様として現代まで愛され続けてきました。線の組み合わせが織りなすグラフィカルなデザインからは、様々なアレンジが誕生しました。

 単独の正六角形の「麻の葉文様」、これを複数連続させた「麻の葉繋ぎ文様」、正六角形の一部を変形させ連続させた「麻の葉崩し文様」、連続文様の所々で形をぼかし破れ目のようにした「麻の葉破れ文様」と様々なパターンと呼び名があります。また麻の葉文様は家紋にも使われ、丸に麻の葉文、三つ割り麻の葉文、麻の葉桔梗文など多くのウ゛ァリエーションが生まれました。

 その中でもよく目にするのは、麻の葉文様を絞りで染め抜いた「麻の葉鹿の子」ではないでしょうか。鹿の子文様は、文様を線ではなく鹿の子という点であらわしたものです。通常、紅色で染めら上げられる「麻の葉鹿の子文様」ですが、文化・文政年間に革命的な出来事が起こります。
 『八百屋お七』で火の見櫓の場を演じた五代目岩井半四郎が、浅葱色の麻の葉鹿の子で舞台に登場したのです。
 浅葱色と火が逆巻く様が鮮やかなコントラストをなしたのでしょう。舞台は大成功を納め、以後、浅葱色の麻の葉鹿の子は「半四郎鹿の子」と呼ばれるようになります。
 また同じ時代に嵐璃寛がお染役に麻の葉文様の着物を着てこれも好評を博しました。そして、麻の葉鹿の子と黒綸子を表裏に組み合わせた昼夜帯が町娘役に多用されるようになりました。



歌舞伎文様考

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