歌舞伎文様考
『薔薇文タイル、英国ヴィクトリアン様式写し』(株)INAXライブミュージアム蔵
一枚のタイルの物語 『薔薇文タイル、英国ヴィクトリアン様式写し』
古くはエジプト、メソポタミアの建造物にもその存在が確認されている文様。人類が歩んで来た長い歴史の中で、文様はそれ自体が生命を持つがごとく、長く茎葉を伸ばし世界中に広がってきました。その文様の歴史に欠かせないのがタイルを中心とした陶板です。
今回はINAXのタイル博物館に所蔵されている貴重な作品の中から、『薔薇文タイル、英国ヴィクトリアン様式写し』をご紹介します。
19世紀から20世紀初頭、英国ヴィクトリアン女王治世の時代にはアールヌーボーなどの芸術性を備えたタイルが数多く生まれました。それらをヴィクトリアンタイルと呼び、明治時代、開国により日本を訪れた英国人設計者などが日本に伝えたことは、以前にもご紹介した通りです。
このタイルは、英国製のヴィクトリアンタイル様式を模して日本のメーカーが大正から昭和初期にかけて制作したものです。明治時代、多くの優れた技術が欧米から伝えられ、西洋風の建築が建てられるようになりました。ところが建材に使われるイギリスのタイルと同等のものがようやく日本で作ることができるようになったのは明治も終わりの頃です。その生産技術は急速に発達し、大正時代になると、インド、中国や東南アジア各国に、さらに昭和に入ると北米、カナダ、豪州方面にまで輸出されるようになりました。
今回紹介する薔薇などの草花文様を多彩色の釉薬で描いたタイルは、主として海外向けに作られたものが多いようです。
このタイルには、英国製ヴィクトリアンタイルに学んだ装飾が取り入れられています。紐状の突起で絵を描き、同時にこの突起した線が色の混ざることも防いだチューブライニング手法。文様の柄を凹凸で素地に刻み付け、透明な色釉をかけることで色合いの濃淡を表現するレリーフ手法などです。当時最先端の技術が駆使された薔薇文タイルは、本場英国のヴィクトリアンタイルと比べても遜色のない表情が得られています。
一昨年、ロンドンのアンティーク市場で本場のヴィクトリアンタイルを探していた時、店頭に並べられているアンティークヴィクトリアンタイルの多くが日本製だったので驚いたことがあります。店主に話を伺うと、高い技術で模倣されたMade in JAPANのヴィクトリアンタイルが、イギリスのアンティーク市場では人気が高いのだそうです。本場のアンティークタイルを探すため足を運んだロンドンの骨董市場でMade in JAPANのタイルに出会い、現在では輸入タイル消費国となった日本の、かつてのタイル製造技術について今一度考えさせられた出来事でした。
文:愛知県常滑市INAXライブミュージアムものづくり工房 後藤泰男
歌舞伎文様考
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