歌舞伎いろは

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「金井工芸」の金井さんは島で一番若い泥染め職人の親方です。金井さんによると、日々の水温や湿度によって変わる泥染めの習得は、長い年月をかけて感覚で覚える以外方法がないといいます。
大島紬の染色に使用される車輪梅は、亜熱帯系のバラ科の植物で、春には梅のような白い花を咲かせます。染料としては、20年以上の木を使うのが一般的です。
細かく裁断し、煮出した車輪梅(地元ではテーチ木とよばれます)の樹液が使われます。これをテーチ木染めといいます。トータルで80回ほど繰り返し染める根気の要る作業です。
 

 奄美大島紬の魅力のひとつは伝統的な「テーチ木泥染め法」にあります。これは、最も伝統の古い染色法です。まず、車輪梅(島では「テーチ木」と呼ばれている)の幹と根を小さく割り、大きな釜で約14時間煎じた液で20回ほど染めます。こうして繰り返し染めることにより、車輪梅に含まれるタンニンによって糸は赤褐色に変わっていきます。これを十分に乾燥させたあと、泥田で染色します。泥田で染めることにより、車輪梅のタンニンと泥田の鉄分とが化合して黒色に変化していくのです。泥染めは、軽く揉んだり叩いたりしながら十分に時間をかけますが、その加減はとても繊細で熟練の技を必要とします。こうした染めの工程を3?4回繰り返すことによって、決して化学染料では合成し得ない独特の風合いと渋い黒の色調に染め上がるのです。

 泥染めの起源ははっきりとしていませんが、享保5年(1720年)に、薩摩藩が奄美の島民に「紬着用禁止令」を発令していたとき、薩摩藩の役人の前で、島民が慌てて田んぼに紬を隠したおりに偶然美しい色に染まったのがその発端ともいわれているそうです。また、良い泥染めを作るには良い泥田が必要です。奄美大島には火山が存在せず古代地層なので、粒子が丸く細やかな泥があります。したがって、紬の絹糸を傷つけずにやさしく染め上げることができるのです。

 こうして、何回も何回も丹念に染め上げられる「泥染め」の技法により「奄美大島紬」はしっとりと艶やかな黒に染めあげられます。そして、泥染めは“しわになりにくい・燃えにくい・汚れにくい・静電気の発生を抑える“といった数多くの利点を付加してくれます。

 現在では、染色法もバラエティ豊かになっています。伝統的な「泥大島」の他、絣用の糸を植物藍で先染めした後に車輪梅と泥染で染色した「泥藍大島」や、それ以外の天然染料で染められた「草木泥染大島」、化学染料を使用した「色大島」などが代表的なもので、おしゃれの楽しみも幅が広がります。

長沼静きもの学院

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