歌舞伎いろは

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さまざまな工程を経て、ようやく織りの作業。数cm織るごとに、細い針で絣の模様の「ずれ」を調整していきます。
柄をご覧いただけます。
現代では、さまざまな意匠や感性が柄に反映されている奄美大島紬。一方で、「龍郷柄(たつごうがら)」や「秋名柄(あきながら)」といった古典的な柄を織る職人さんは減少してきており、貴重なものとなりつつあります。
織り上げられた絣をほどいたり、化学染料で特殊な色を刷り込んだりする作業。細かく、根気のいる作業です。

 丹念に染め上げられた奄美大島紬は次なる魅力、「絣織り」へと移ります。締めが力の男仕事ならば、根気のいる織りは女性の仕事です。高機(たかはた)による手織りで一糸一糸心を込めて織られ、数cm進むごとに絣のずれを調整し美しい絣模様が織り出されます。島には数多くの織工さんがおり、ひと昔前までは嫁入り前の娘に織りの技術を習得させたそうです。親から子へ、その伝統的な技術の継承は連綿と受け継がれ、現在でも工場だけでなく小さな村からも機織りの音が聞こえてきます。

 また、加工技術の研究改善により、現在では古典的な幾何学模様だけでなく、複雑で繊細な文様も数多く生産されるようになりました。しかし、手織りや絣調整に求められる熟練した技術もその文様によって異なるため、古典柄専門・現代柄専門の職人さんと分かれる傾向にあり古典柄を織る職人さんは減少の一途をたどっているそうです。

 こうして多くの熟練した技術が集まって出来上がる「完全分業」の本場奄美大島紬には、数々の気の遠くなるような工程と作り手の想いが込められ、出来上がるまでに半年から一年以上の月日がかけられているのです。

 古来より奄美大島紬は伝統工芸品としてだけでなく、高級絹織物として知られてきました。現在では色・柄・風合いなど豊かなバリエーションもあり、着る機会も多様になってきています。元々、しっとりと艶やかな黒に染め上げられた奄美大島紬は、シックな色合いなので、帯や帯締めといった小物にアクセントを加えやすく親しみやすいきものです。

 また、奄美大島紬の普及と共に作られた「奄美大島紬協同組合」によって、その品質は常に高い水準が保たれてきました。現在、織り上げられた大島紬はすべて検査場に持ち込まれ、一反一反厳正なチェックが行われています。合格した紬には登録商標である地球印が必ず貼られます。こうして、島のきらめく太陽と美しい自然、そして多くの人々の情熱と想いが込められて丹念に作り上げられた「奄美大島紬」は、伝統工芸品としてその品質を守りながら、日本だけでなく世界中に愛される逸品として今日も進化し続けているのです

検査で合格した「本場奄美大島紬」の製品のみに付けられる登録商標。

長沼静きもの学院

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