歌舞伎いろは

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 博多織は、縞や献上柄に代表される「平地」と多彩な色で華やかな文様を織りなす「紋織」の2種類に分類されます。博多織は密にした経糸(たていと)を浮かせて、緯糸(よこいと)を強く打ち込むことで模様を織り出します。このため多量の糸を使用することになり、厚地で強靭な織物が出来上がるのです。しなやかでしゃきっとした風合いと美しい光沢をもつ織物からは、糸と糸がきしみ合う独特の「絹鳴り」の音が帯を締めるたびにキュッと響きます。博多織が古くから帯地として人々に好まれてきた理由はこの辺りにあるのでしょう。

 今回は、創業60年の歴史を誇る筑前織物の生産部門・福絖織物の工房を訪れました。活気溢れる工房の中では、約30台の力織機がガシャンガシャンと力強い音が奏でながら緻密な文様を織り上げていきます。「多いときでは一人で3台の織機を同時に見るんですよ。でも、身体が覚えてしまったので大変なことは何もないんです。」と話してくださったのは、梅野敏子さん。40年間力織機を見守り続けているベテランの職人さんです。以前は手機で織られていた博多織ですが、現在では9割以上が力織機によるものだそうです。力織機を用いたとしても、1本の帯を織り上げるには1週間から10日ほどかかるそう。博多織の精巧さと緻密さがうかがえます。

 一方で、受け継がれてきた手機の技術を残そうという試みも行われています。「博多織デベロップメントカレッジ」では、博多織の技術を習得すべく若者たちが日々学んでいます。最近では、県外からの希望者も後を絶たないそうで、「みなさん物を作る喜びを感じながら働きたいと願っているのかもしれませんね。博多織に関わる人たちみんなが、産地の活性化と技術を守ろうという情熱を持っているんです。」と筑前織物の社長・丸本さんが力強く語ってくださいました。
 
生徒さんが訪れたこの日、梅野さんは献上柄の平地と紋織の2台の力織機を同時に操っていました。
織物の文様を表すのに欠かせない「紋紙」。現在の力織機ではコンピューターが代役をこなしています。
白地のきものにモダンな柄を配したすくい織の帯が映える内尾真知子さんの装い。見る人にも涼感を与えてくれる白地の小紋には、水面に繰り広げられる模様を生地に写して染め上げた墨流し染めが施されています。
柿渋染めの縞模様の紗のきものに、木蓮の花を手描きした麻の名古屋帯を締めた天本明美さんの装い。柔らかい印象の装いに、グリーンのレースの帯締でアクセントを加えています。

長沼静きもの学院

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