歌舞伎いろは

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 夏の帯は絽、紗、羅といった生地が多く用いられます。絽は織、染の両方の帯として用いられますが、紗や羅は目が粗く、網目状のものが多いので織の帯に用いられることが多いようです。夏きものの装いだからといって、帯合わせに特別なルールが生まれるわけではありません。薄さ、密度、柄行、仕立てなどにもよりますが、きものと帯の格を間違わずに組み合わせることが大切です。

 昔から、「織のきものに染の帯、染のきもに織の帯」と言われてきました。見た目にも優雅な染のきものは、フォーマルなものとして仕立てられることが多く、織のきものより格が高いとされています。一方、もともとは庶民のふだん着として作られていた織のきものは、染のきものよりしっかりとした布地が多く、主にカジュアルなものとして用いられます。それに対して、帯は染よりも織のほうが格が上とされています。つまり、きものと帯の格を合わせると自然とこの法則が成り立つのです。柄も鮮やかな染のきものには、金銀糸が織り込まれた豪華な織を、麻や紬といったシンプルな織のきものには優しげな染の帯をすることで、調和がとれた美しい装いになるとされています。もちろん、あまりこだわる必要はありませんが、帯合わせに困ったときにはこの法則を思い出すと良いでしょう。

 夏きものはより涼しげな印象を与えるため、控えめな色使いやシンプルな柄行きが多くあります。さらりとした印象の夏きものには、遊び心の効いた帯を合わせることで、装いに季節感が加わります。カジュアルな帯には、朝顔、うちわ、金魚や花火など夏を思わせる文様が多く、装いに物語性やインパクトを与えてくれます。8月後半には、とんぼや秋草、実りの季節を連想させるぶどうや木の実などもおすすめです。

 夏らしい斬新な小紋に負けない、インパクトのある柄の帯を合わせた天沼さん。染のきものにあえて染帯を合わせることで、いっそうしなやかな女性らしい装いを目指した佐藤さん。ガーゼのような柔らかな織の妙を楽しませてくれる紗の袋帯を締めた岩下さん。三者三様のコーディネートが見る人の目を楽しませてくれます。
 
帯に描かれた大きな蝶は、まるでダリヤに引き寄せられてやってきたかのよう。このように装いに物語性を持たせることができるのも、きものならではの楽しみ方です。帯は絽ちりめんの袋帯を角出しで粋に。
略礼装としても使えるつけ下げには、優しい印象の染帯を合わせました。帯を織のものに変えると一段と格があがり、フォーマルな場所にもぴったりの装いとなります。帯は絽の袋帯を二重太鼓ですっきりと。
江戸小紋は帯合わせによって街着から略礼装まで使える優れものです。今回は金糸や銀糸が織り込まれた格調高い織の帯を合わせ、ドレスアップ。帯は紗の袋帯をお太鼓結びにすることでシャキッとしたうしろ姿を創り上げました。

長沼静きもの学院

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