歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 きものに合わせる帯や小物を変えることで、幾通りもの表情を楽しめるのも、和の装いの魅力です。そうした小物の中でも、あくまで控えめに、けれども雰囲気を大きく左右するのが、「最後のひとすじ」である帯締かもしれません。

 「帯締というのは、たかが1本、されど1本。選ぶものによって、きものや帯が生きることもあれば、反対に主役の存在感が薄れてしまうこともあります。帯締を『脇役であり、主役』だと思って、コーディネートを楽しんでみてはいかがでしょう」

 そう話すのは、長沼静きもの学院 銀座校の「 くみひも科」講師、大野静穂先生。絹糸を手や機械で組み上げていく組紐は、江戸時代より帯締に使われるようになったといわれています。今回は、組紐をこよなく愛する大野先生に、「帯締で表現する」3つの装いを見せていただきました。

 きものや帯との柄合わせで、自分流の物語を紡ぎながらコーディネートを楽しむのが大野先生流。
 「『組紐で表現する』といっても、ひとつのアイテムだけでは完結しないのが和の装いというもの。きものや帯に込められた作家さんの想いを汲んで、その想いをいかに共有するかを考えていくと楽しいですよ」

京の伝統的な祭りの様子が染め上げられた小糸太郎先生の一枚に合わせたのは、和歌を組み込んだ帯締。白い地の部分には、見せるためではなく、大野先生が和歌を纏いたいという思いから、シルバーの糸で組み込んだ「見えない和歌」が。粋な1本です。

モダンなピンクの小紋と同系色の帯締、それらとの対比が映える黒地の帯の組み合わせは、それだけでキュートですが、お太鼓部分には月を見上げる二匹のうさぎが。さらに帯留のうさぎは、まるでお太鼓から飛び出したようで、ひとつの物語を演出しています。

松が描かれた帯に合わせたのは、「帯の松から枝が伸びるように見せたい」と、大野先生が松の枝を組み込んだ帯締。帯はお太鼓の部分にだけ文様がありますが、体の正面に松の文様がくるように組んだ帯締を合わせることで、全体の調和が図られています。

長沼静きもの学院

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