歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 照りつける日ざしの中、透け感の美しい絽や紗のきものをまとって颯爽と歩く――。夏きものの涼しげな佇まいに、誰もが目を奪われたことがあるのではないでしょうか。しかし、どう着ればよいのかわからないという方も多く、憧れはあっても、なかなか一歩を踏み出せない方もいるかもしれません。夏きものを着られる時期は一年の中でもわずか数カ月。ルールも難しそう…と思われがちですが、基本さえ押さえれば夏のきもの美人への道も遠くはありません。
 夏きものの基本は、見ている人に清涼感をもたらすこと。通常は色や素材、文様で涼しさを表現しますが、初心者の方はこれからご紹介するように、色の選び方・色の取り合わせで「涼」を表すのがおすすめです。


 はじめての夏きものに、絽のつけ下げを選ばれた大澤弥里さん。光の加減によって色調の変わる茄子紺の盛夏のつけ下げに、対比が美しい、さわやかなピンクベージュの名古屋帯を合わせました。白の草履も涼しげで、清涼感あふれる装いです。帯や、帯揚、帯締に使われているピンクが差し色となり若々しい雰囲気に仕上がっています。
帯まわりは、絽綴(ろつづれ)の名古屋帯に、帯締と帯揚を合わせて、ピンク系統でまとめました。帯締に淡い色を持ってきたことで、細身な体つきがカバーされ、ゆったりとした雰囲気に。
帯にいくつもの色で描かれているのは、露芝(つゆしば)と呼ばれる古典文様。三日月型に弧を描いた芝草に、露の玉がついている状態を表したもので、盛夏のきものや帯によく用いられます。
透け感のある絽目と、裾に伸びやかに入った夏らしい植物の文様が、涼しさを感じさせます。濃い色のきものに白の草履を合わせたことで、よりさわやかな印象に仕上がりました。
 

 更衣(ころもがえ)があるのは、洋装だけではありません。きものは、季節に合わせて仕立や材質を替えるのが昔からの習わしです。地域によって気候条件が異なるため一概にはいえませんが、基本的には、10月から5月は裏布のついた袷(あわせ)、6月と9月は裏布のない単衣(ひとえ)、7、8月にはうすもの(薄物)と呼ばれる透ける素材のきものを着用します。6月中旬から9月中旬の間は、帯も夏物を用いるようにし、長襦袢、小物なども帯に準じて透ける素材などを用います。

 
【絽】
絽(ろ)は、捩(もじ)り組織という、生地に隙間(絽目)ができる織り方をした生地。小紋にも用いられますが、ドレッシーな雰囲気があり、留袖やつけ下げなどにもよく使われます。夏帯の素材としても絽は一般的で、夏の間中使えます。
【紗】
通気性が高い紗(しゃ)も、夏きもの素材の代表格。絽よりも絽目が大きく布地全体に透け感がある生地なので、下着にも普段以上に気を配りましょう。夏帯にも使われ、こちらも初夏、盛夏、初秋と夏の間中利用できます。
【上布】
上布(じょうふ)とは、細い麻糸を用いて織った麻布のこと。しわになりやすく、おしゃれ着としてよく用いられます。麻の肌触りや通気性、速乾性などから夏きものとしてよく使われます。越後上布、宮古上布、能登上布などが有名です。
【絽縮緬】
絽縮緬(ろちりめん)とは、しぼ(波状のしわ)のある縮緬に絽目のある生地。もともとは、単衣として初夏(6月)か初秋(9月)に着られていましたが、最近では、盛夏(7月・8月)用に用いられることも良いとされる傾向があるため、比較的に長い期間使える素材として重宝します。
 

長沼静きもの学院

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