歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 初秋とはいえ、夏の暑さがまだ残る9月。この時期にまとうのが「単衣(ひとえ)」と呼ばれる裏布のないきものです。9月の単衣は「秋単衣」と呼ばれるように、6月の単衣とは違い、色彩や柄ゆきなど秋らしいものを選びます。きものや帯の文様で季節を先取りするのは、和の装いの“粋”なところ。涼やかさを演出しながらも、秋の近づきを微妙な色や文様の変化で表現し、この時期ならではの着こなしを楽しんでみてはいかがでしょうか。

粋な茄子紺のつけ下げに
 上品な秋単衣を着こなしてくださったのは、今村正子さん。稲穂の模様があしらあわれたつけ下げは、華やかな金彩友禅で知られる和田光正先生の作品。澄んだ水色は清涼感を表し、肩裾に配された稲穂の文様と落ち着いた紫色の帯がさわやかな中にも秋の風情をもたらしています。色の対比が美しい夏の終わりの装いです。
普段は小紋に合わせているという名古屋帯を、この日はつけ下げに合わせて。文様が華やかなので、フォーマルなきものにもぴったりです。印象的なつけ下げと帯を生かすため、帯揚と帯締はあえて落ち着いた色味を選びました。
シルバーグレーの金彩が目を引く名古屋帯も、きものと同じく和田光正先生の作品。文様の部分に金箔・銀箔を乗せてあるため、絵柄が浮き立って見える印象的な一枚。
稲穂が小舟に積まれている様子が大胆に描かれたつけ下げ。描画には、糊を置いた上に金箔や銀箔を乗せる技法が取られているため、立体感があり、まるで稲穂が大海に舞っているかのよう。
 

 夏の装いで忘れてはいけないのが、下着への気配りです。きものだけでなく、下着類も夏は夏用を用いるようにしましょう。夏きものは、透け感があるのが魅力ですが、それはすなわち透けて見えて欲しくない部分まで透けて見えてしまう可能性もあるということ。安心して夏きものを楽しむためにも、透け対策、汗対策を考えつつ、涼しく着こなしたいものです。

 絽、紗、麻、絹、木綿、ポリエステル…。夏に着る長襦袢の素材はさまざまですが、では何を目安に選べばよいのでしょうか?
よく使われるのは、初夏?初秋までを通して着られるという便利さが魅力の絽の長襦袢。ただ、可能であれば、紗のきものには紗の長襦袢、麻のきものには麻の長襦袢というように素材を合わせるのがおすすめ。そうすれば、透けた場合も不自然になりません。
 なお、色付きの長襦袢もあり、きものの透け感との組み合わせを楽しむこともできますが、重宝するのはやはり白い長襦袢。どのきものにも合わせられるので、まずは白を揃えましょう。ちなみに、化繊よりも天然素材を選ぶと、涼しいうえに、きものがすべらないため着崩れしにくいというメリットもありますよ。

長沼静きもの学院

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