歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



絞りのゆかた①
有松の絞りです。さまざまな絞りの技法を組み合わせることで、大胆なデザイン柄を描き出しています。近寄ってみると、涼しげな金魚の泳ぐ姿が…。色のコントラストも素敵です。

 

絞りのゆかた②
朝顔柄の有松の絞り。茜色や淡い黄色など、顔映りのいい色味に仕上がっています。絞りの一粒一粒を見ると、丁寧に染め上げられていることがよくわかります。

ゆかたに込められた伝統の技法―絞り
 ゆかたは以前は、湯上りに身にまとうものでした。さらに元をたどれば、名前の由来ともなっている“湯帷子(ゆかたびら)”、入浴の際に着ていたものがルーツです。しかし、現代では、夏祭りや花火大会などにさらりと着て、夕方からお出かけするときの街着として親しまれています。

 ゆかたを着る場面は変わっても、涼しさを与える召し物であることに変わりはなく、さらに、日本の生活の中で長く着られてきたゆかただからこそ、そこには古くから伝わる日本の伝統技術が息づいています。その一つがここでご紹介する「絞り」です。

 名古屋の有松・鳴海地方では、多様な技術が江戸時代から継承されてきました。蜘蛛の巣状の柄に仕上がる「くも紋」や鹿の斑点に似た柄の「鹿の子紋」、また、ランダムな縞模様が特徴の「筋紋」など、さまざまな技術を組み合わせ、多彩な柄に仕上げていきます。また、その立体感は肌触りを涼しくし、さらりとした着心地のよさを与えてくれます。

 絞りのゆかたといえば、以前は藍染めが基本でしたが、近年は染料の進歩により多彩な色のゆかたが登場しており、よりカラフルに楽しめるようになりました。

 

長板中型のゆかた
シックに藍一色で染め上げられた長板中型は、大人の女性にぴったり。表は細かいところまで描きこまれた市中洛図、裏には小花柄が施されています。

 

綿絽のゆかた
藍で染め出された小菊柄が涼しげな、綿絽のゆかた。さらりとした肌触りです。近づいてみると、横糸方向に絽目があることが、おわかりになるでしょう。

 

二通りに楽しむこともできる―長板中型
 ゆかたにしばしば用いられる、もう一つの代表的な伝統技法が「長板中型(ながいたちゅうがた)」。きものに施される型染めと同じ工程を経てつくられる、手のかかった染物ですが、その特徴の一つが「両面染め」です。

 風で裾がひるがえったときでも絵柄があるように、という江戸庶民の心意気から生まれたものと言われますが、表裏同じ柄をぴったり同じに染め上げるのは至難のわざ。現在は、表裏で別の柄をあしらったものもあり、仕立て直して二通りに楽しむこともできます。

 長板中型は、その名のとおり長さ6.5メートルという長い板に貼り付けた生地に、小紋よりも模様の大きな、中くらいの型紙を使って染め上げたものです。江戸の昔、倹約令により木綿のきものしか着られない時代に生まれながらも、競って複雑で細かな柄が描かれたため、かえって豪華さや高級感が漂うものとなりました。

 ちなみに、昔はゆかたのことを「中型」と呼んでいたほど一般的な染物でしたが、現在では、高い技術をもつ数少ない職人の手による高級品となっており、粋なゆかたとして好んで着られています。

 このほかにも、夏きものにも用いられるような織の技法でつくられたゆかたが、いろいろあります。これらは襦袢をつければ、ちょっとしたお出かけ着にもなるゆかたたちです。

長沼静きもの学院

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