歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



鶴の飛び交う様を織りだした品格のある白無垢。鶴の羽の表情が見事に表現された高級感あふれる逸品です。

きめ細かな濃淡をつけて金糸を選び、横振刺繍を用いて、尾羽の流れを優美に表現。大人の女性を演出できます。

 

ゴールド、オレンジ、グリーンなどの羽をもつ鶴が、きもの全体を美しく舞う打掛。どんな式場にも映える柄です。

世代を選ばず呼応感度の高い鳳凰の、躍動感あふれる華やかな赤地の色打掛。ひわ色の掛下を合わせて現代風にアレンジ。

 

グリーンの打掛に赤の掛下でモダンな雰囲気に。大柄な花の織りが華やかさを引き立たせます。川島織の美しさが印象的。

黒地にビビットな色の柄が映える黒の引き振袖。小物や帯で古典風にも現代風にもアレンジできるきものです。

 

今、注目される和婚とは
 クリスマスを祝った数日後には、門松で新年を迎える、そんな現代の日本人は結婚式に対しても自由でした。流行やファッション、好みでさまざまな形で式が行われてきたわけですが、今年、そこに考えもしなかった大災害が――。そして自然と、人々の心は“和”に向かいました。和の心を取り入れた結婚式“和婚”が見直され、注目を集めるようになったのです。

 結婚式は二人の“絆”を誓うものであるのと同時に、家族の“絆”を生む場でもあります。そこで、白無垢、色打掛、振袖など、日本ならではの花嫁衣裳をまとうことで、“絆”を大切にしてきた日本人であることを形でも表す。そうすることで、日本人であることの強さ、温かさが改めて感じられたのではないでしょうか。


和婚の装い――絢爛な打掛
 今ではさまざまなバリエーションが生まれている和の花嫁衣裳ですが、大きく分けて<打掛>と<振袖>があります。

 <打掛>は、昔々、武家階級の女性たちが正装としてまとったもの。なかでも<白無垢>と呼ばれる純白の打掛は、嫁入りする女性の真っ白な心を表す、とても美しいお召物です。打掛の下に着る掛下や帯はもちろん、小物に至るまですべて白で統一されます。

 一方、唐織や綸子(りんず)、緞子(どんす)などの織物を用いた打掛が、<色打掛>。歌舞伎の舞台や時代劇などでも目にしますが、現代の女性がまとえるのは和婚だからこそ。特別な日を感じさせてくれる豪華絢爛なお召物です。


和婚の装い――憧れの黒の引き振袖
 もう一つ、代表的な和の花嫁衣裳として挙げられるのが<振袖>。未婚女性の第一礼装で、正式な場所に出席できる装いです。さまざまなものがありますが、最近、注目を集めているのが<黒の引き振袖>。黒地に艶やかな柄を配した振袖を、裾を引いて着付けるものです。

 この黒の引き振袖、ルーツは江戸時代の御殿で働く女性たちの衣裳です。お城で華やかに働く彼女たちは、庶民の女性にとって憧れの的でした。一生に一度、せめて結婚式のときに憧れの衣裳を着てみたい――というところから、この黒振袖が花嫁衣裳として取り入れられるようになったようです。昭和初期までは花嫁衣裳といえば、この黒の引き振袖が主流でした。


選び方のポイント
 白無垢は挙式のみに着られる衣裳ですが、色打掛と黒の引き振袖は挙式から披露宴まで通して着ることができます。

 また、今は和装でも洋髪のヘアスタイルを選ぶ人が少なくありませんが、衣裳とのボリュームバランスを考えると、文金高島田の鬘(かつら)はとてもしっくりきます。白無垢ならば「綿帽子」、色打掛や黒の引き振袖には「角隠し」をしてみるのも、和の心を感じさせて素敵です。

長沼静きもの学院

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