歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



これぞお正月。吉祥文様の宝づくしと四君子(竹、梅、菊、蘭)の柄の間を、華やかな色をまとった鶴が飛び交う振袖が、若い伊礼加奈子さんにお似合い。

 

どこかオリエンタルな雰囲気を醸し出す色柄の訪問着は松尾佳与子さん。手の込んだ幾何文様の豪奢な帯で、個性的ながらも華やかさが際立つイメージになりました。

 

流水柄をベースに、デザイン化された竹と梅をメインのモチーフにした訪問着の原田優さん。お正月は洋装では着ないような色にもぜひ挑戦を。

 

お正月に晴れ着を着る理由
 ジングルベルが鳴りやんだ途端、年越しそば、ご来光、初詣と、「和」のテイストに気分が切り替わって新年を迎える私たち。その寛容さが日本人の楽しさ、愉快さでもありますが、装うこともまた同様。ふだんはきものと縁遠い人も「お正月ですもの」という心持ちで、急にきものを近しく感じる時節ではないでしょうか。

 お正月だからこうでなければならない、という決まりはありません。お友達との気軽な集まりなら、好きなものを好きなようにお召しになってもいいでしょう。ただ、年が改まったおめでたい気持ちから、昔からお正月といえば「晴れ着」でした。

 晴れ着とはおめかしした装い。よそいきということですが、お正月は目上の人のところにご挨拶に出かけたり、華やいだ集まりの多いときです。初詣も、神社仏閣にお参りするわけですから、これも、改まった場と考えられます。そういう場所に出かけるのなら、やはりそれにふさわしい装いでありたいもの。礼装ほどに格を意識する必要はありませんが、華やいだ、新たな気持ちが表れた装いで、を心がけます。


年代、シチュエーションにあった晴れ着
 お正月にふさわしい晴れ着として考えられるのは、若い女性、未婚の女性ならば「振袖」。大人の女性、既婚女性ならば「訪問着」、「紋付の色無地」といったところになります。特別に改まった場所、格を意識する必要のない場所でしたら、紋なしの色無地や華やかな小紋、紬などで楽しむのもいいでしょう。

 ただ、せっかくのお正月ですから、おめでたさを感じられるきものにしたいのも本音です。それをわかりやすく演出できるのは、色と柄ではないでしょうか。

 たとえば、洋装ではモノトーン好みの人も、お正月のきもにはぱっと明るい色を選んでみてください。「ピンクなんて、絶対に着ないわ」という人でも、そこはきものマジック。おめでたい印象になるだけでなく、自分でも気づかなかった華やかな自分を発見し、驚くことになるかもしれません。


振袖はどこまでOK?という問題
 近頃は、成人式や卒業式に振袖を着る人が増えています。「でも、お正月にまで着るのは大げさかしら?」などと迷っているのなら、決してそんなことはありません! 振袖は若い、未婚の女性にだけ許された特権です。着るチャンスは限られているのですから、着てみようかしらと思われるのならぜひ、とおすすめします。

 ただし、成人式や卒業式では“私が主役”ですから、ドレスアップ感覚の着こなしも素敵です。が、お正月の晴れ着としては、それとは少しコーディネイトを変えることを意識したほうがいいかもしれません。たとえば、帯の結び方は定番のふくら雀や文庫にし、伊達衿はつけず、帯締も華やかに飾らないで通常の結び方や藤結びにして、全身をシンプルな着付にしてみる――。お正月なればこそ、正統な振袖コーディネイトを楽しんではいかがでしょうか。

長沼静きもの学院

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