歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



きものの黒地に配された吉祥文様。①は打出の小槌や金嚢など、宝づくしの柄。②は松竹梅。竹、梅、菊、蘭の「四君子」も、季節を問わない吉祥文様の一つです。

 

白地の唐織の帯に配された吉祥文様。左側は花襷(はなたすき)、中央部分は長寿吉兆の亀甲柄、右側は七宝花菱紋。襷、亀甲、七宝はいずれも平安時代以降、公家階級で用いられた伝統の有職文様です。

 

帯揚にもおめでたい柄をしのばせましょう。①は青地に梅づくしと、赤の紗彩形(さあやがた:卍崩しともいい、慶弔両方に用いることができる柄ですが、赤×金のこちらは慶事用)。②は宝づくしの刺繍と、黄色は唐草と麻の葉つなぎで、子孫繁栄を表します。

 

帯締の細かい部分にもおめでたい柄を。緑のものは松、朱色のものには熨斗(のし)、黒は梅。こんな細い帯締1本を締めるだけでも、お正月気分が味わえます。

 

四季のある国の装いなればこそ
 和の装いはことのほか季節感を大切にします。薄物、単衣、袷といった織り方や構造の違いはもちろんですが、色柄でも季節感を表して楽しむ――。きものを手にするたび、四季がある国の装いだからこそ、と誇らしくなるくらいではないでしょうか。

 そこで、お正月ならおめでたい柄となるわけですが、元来、晴れ着には「おめでたさ」を感じさせるように考案されているものが多いのです。お手持ちの晴れ着の柄をよくご覧になってみてください。あら、こんなところにもと驚くくらい、おめでたさを意識した柄が見つかるはずです。


おめでたい柄とは
 きものによく用いられるおめでたい柄の代表には松竹梅、そして宝づくしがあります。松竹梅は寒さに負けず、青々としている松と竹と、花を咲かせる梅の組み合わせ。宝づくしとは、打出の小槌、銭を入れる袋(金嚢:きんのう)、願いが叶う宝の玉(如意宝珠:にょいほうじゅ)、宝剣や宝輪など、縁起のよい、お祝いにふさわしいとされる宝物を配した文様のことです。

 これらを含め、縁起がよいとされる植物や動物、品々を描いた図柄は「吉祥文様」と呼ばれ、日本のみならず、東洋で広く用いられてきました。たとえば長寿の象徴である鶴と亀。また豊かさの象徴としての七宝。末広がりから発展をイメージさせる扇、立身出世の象徴である鯉、生命力の強さから健康を祈る麻の葉…。着るものだけでなく、調度品などにも用いられ、人々の生活に馴染んできました。

 また、吉祥文様以外にも、お正月だからこそ着たい柄があります。玩具文様、カルタや百人一首を配したものなど、お正月の気分を満喫できる色柄を身につけて楽しんでください。


おめでたい柄をどう身につける?
 吉祥文様を用いた訪問着や袋帯ならば、おめでたい場所に着る礼装として十分に活用できますから、お正月のためというだけでなく、この機会に誂えるのも決して贅沢ではないでしょう。「新調するのが難しい」というのであれば、帯揚や帯締、半衿などに吉祥文様を配したものを選んでみてはいかがでしょうか。

 小物だけでも季節感を演出し、楽しむことができる――。それもきものの、とても素敵な魅力の一つです。

長沼静きもの学院

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