歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



手描き友禅の訪問着。蝋たたきの技法で波のような模様が表されています。

 

こちらも手描き友禅の訪問着。肩から裾にかけては枝垂れ桜、裾には童。

 

茶屋辻柄の手書き友禅の訪問着。一福の絵のような細かな柄を一色で表す藍の魔術。

 

柿渋染めと藍染を合わせ用いた訪問着。なんともいえない深みのある色です。

 

小泉八雲が愛した藍
 日本人と青い衣――ここから連想するのはなんでしょう。今ならやっぱりサッカー日本代表チームの“サムライブルー”でしょうか。確かにあの青いユニフォームを来てピッチを走り回る日本人選手はとても美しい。けれど、日本人が球を蹴るようになるずっとずっと前から、私たちは青い衣を愛してきたのでした。

 その目撃者の一人が、小泉八雲ことラフカディオ・ハーン。彼の著作にこんな一節が出てきます。
「青い屋根の小さな家屋、青いのれんのかかった小さな店舗、その前で青い着物姿の小柄な売り子が微笑んでいる」(『新編日本の面影』「東洋の第一日目」池田雅之訳/角川ソフィア文庫)
 この国を初めて訪れた人が抱いた第一印象が「青」。それくらい町には青があり、藍染のきものを着た人であふれかえっていたのです。


日本人の肌にもっとも似合う色
 日本人が藍染のきものを愛してきたのにはさまざまな理由がありますが、その筆頭は「私たち日本人の肌にもっとも似合う色」であることでした。

 もちろん、日本人の肌色といっても、ちょっと日焼けした肌から美白美人まで、決して一色ではありません。けれど、それと同様、藍も一色ではないのです。染め方や染めたときの状況によって多様な「藍色」が現れる。そのなかには、必ずあなたに合う「藍色」があるはずなのです。

 多様な「藍色」。これこそが藍染きものの魅力ではないでしょうか。藍染のきものにはさまざまなものがあります。手描き友禅や型染めなど、細密で美しい柄を施されたものもありますが、これも藍一色で染められたもの。ほかの色でこんなことはまずかないません。それほど「藍」という色は、濃淡のなかに、ほかの色では考えられないような多くの色が現れるのです。


藍は高貴な色でもある
 仕事着にも使われる藍染ですから、日常着という印象をもつ人もいらっしゃるでしょう。ですが、それは大きな間違い。藍色は赤と黄色の複合色素ですから、濃く染めていくと紫がかってきます。ご存じのように、紫は高貴な色。それに通じるということで、藍も殿上人などにも好まれた格のある色なのです。

 といって、気張った印象ばかりでもありませんから、コーディネイト次第でくつろいだ場所にも合います。前に出すぎず、後ろにも下がらず、藍染のきものほど場所を選ばないものはないといわれるのは、こんなところに理由があるのでした。

長沼静きもの学院

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