歌舞伎いろは

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江戸時代から昭和初期まで実際に使われていた藍染の数々。武士の小袖から火消しの半被。野良着に暖簾、手拭と、ありとあらゆるアイテムが。

 

そして現代、藍の機能を究極の美に仕上げた一反。染師の小谷さんが最も難しいといった藍染の色無地。「これと同じ色をと頼まれてもできないのです。藍のご機嫌次第ですから」。気に入ったら一期一会。逃してはなりません。

 

藍染は染め上がりすぐではなく、しばらく置いてから着たほうがいいなどといわれることがあります。これは、本藍染は付着染料のため、擦れたり、水に濡れたりすると色落ちする場合があるから。ですが、付着染料であるゆえに火にも水にも強く、使い込むほど渋みや落ち着きが増すのです。藍染は一生もの、の由縁です。

 

薬として伝来した藍
 藍染のきものは、鎌倉時代にはすでに武家の間で愛用されていたようですが、そもそもは藍の実が漢方薬として中国から伝わったともいわれています。蓼藍には解熱、解毒、血液浄化などの作用があるといわれ、防虫、防カビ、防臭効果もあるのだそうです。

 虫のみならず、毒蛇も寄せつけないといわれ、また、藍で染めた布は強く、燃えにくく、保温にも優れていることから、昔から道中着や火消しの半被、機関士や水夫の制服など、仕事着に広く用いられてきました。蚊帳、産着、手拭などの日用品に藍染が多く用いられているのも、こういった藍の効能あってこと。日本人が藍染を愛してきたのは、藍の力をよくよく知っていたからなのでしょう。


藍という色の意味
 高貴な色、紫にも通じるということで、殿上人も愛用した藍。歌舞伎などでも、格のある人の裃(かみしも)などに藍が使われていることが少なくありません。が、やんごとなき人々に藍が愛されてきたのは、格のある色だからというだけではありませんでした。

 黒に見えるほど深い藍色を「褐色(かちいろ)」と呼びますが、この「かち」は「勝つ」につながるということから、縁起を担いで武具に用いられたり、武家の祝賀に用いられたのだそうです。サッカーの日本代表が「サムライブルー」を用いているのも、この「勝ち色」に通じるからというのも一説とか。丈夫で美しく、かつ縁起がいい――。いうことなしの藍色です。


長く着られて身体に優しい
 先にお話をうかがった藍師の新居さん、染師の小谷さんは、藍染の靴下を愛用していらっしゃいました。防臭、保温、強度などもありますが、愛用のわけはそれだけではないのだそう。履けば履くほど丈夫になり、しかも足が地面に吸いつくような感触を味わえるのだとか。同じ布が染料次第でこんなに変わってしまうなんて本当に驚きです。

 だからこそ、藍染は愛されてきたのでしょう。長く着れば着るほど輝きを増し、たった一つの色から無間の美を見せてくれる――。それが、藍染のきものが私たちをひきつけてやまない理由なのかもしれません。

長沼静きもの学院

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