歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



鶴岡八幡宮、雪ノ下あたり

 振袖姿のお嬢様だと思っていたら世間を騒がす盗賊団“白浪五人男”のメンバーだった、という弁天小僧菊之助の正体が明かされるのは「浜松屋店先の場」。河竹黙阿弥の筆による「知らざあ言って聞かせやしょう」に始まる七五調の名台詞が耳に心地よい人気の場面だ。この浜松屋は鎌倉雪ノ下にある呉服屋という設定となっている。行政による統廃合によって昔ながらの地名が全国あちこちで失われつつあるが、雪ノ下という住所はいまも健在だ。鶴ヶ岡八幡宮を取り囲むようにしてその名は分布している。

鶴岡八幡宮、雪ノ下あたり
 
鶴岡八幡宮、雪ノ下あたり
鶴岡八幡宮、雪ノ下あたり

 源頼朝が幕府を築いた鎌倉というまちはこの鶴ヶ岡八幡宮を中心に発展して来た。その参道が、弁天小僧の台詞にも登場する由比ヶ浜へとまっすぐに延びる若宮大路だ。若宮大路の二ノ鳥居から三ノ鳥居までの間は周囲より一段高くなっている。県の史跡「段葛」である。段葛は八幡宮に近づくほど道幅が狭くなるように造られているという。遠近法で奥行を巧みに演出しているとは! 『仮名手本忠臣蔵』の大序「鶴ヶ岡社頭兜改めの場」の書割、つまり背景画さながらの智恵を現実に目の当たりにできるというわけだ。

 若宮大路の東側を流れているのが滑川(なめりがわ)。物語のラスト「滑川土橋の場」で白浪五人男のリーダー・日本駄右衛門は、潔く青砥藤綱の縄にかかると言い放つ。青砥藤綱はこの地に実在した人物で、滑川上流の青砥橋近くに青砥藤綱屋敷跡の碑がある。

 
段葛 こ寿々(わらびもち)  

段葛 こ寿々(わらびもち)

鳥居の目の前を走る若宮大路沿いにある手打ちそば「こ寿々」。ここの「わらび餅」は昔ながらの手法を守り、毎朝、銅なべで材料を練り上げている。わらびの根からとった希少なわらび粉を使い、独特の香と透明感に仕上がっている。その上に秘伝の黒蜜と国産きのこがかかると、とろけるような食感を楽しませてくれる。(石原)

住所

 : 

鎌倉市小町2-13-4

TEL

 : 

0467(25)6210

営業時間

 : 

11:30~18:30 / 月休(祭日の場合は火休)

 

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