歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



すべて村民の手づくり、舞台裏は大忙し

 5月12日の公演当日。午後4時を過ぎたころから、舞台周辺は人の出入りが激しくなる。舞台には幕がかけられ、その裏では大道具の建て込みが始まり、衣裳や鬘が次々と運び込まれる。いち早く化粧に取りかかっていたのは、幕開きの「寿式三番叟」を踊る中学3年生の星雄介さん。文化祭で「三人三番叟」を踊ったことはあるものの、これが初舞台となる。檜枝岐中学では課外授業に「三番叟」の踊りが取り入れられているのだ。

「三番叟」の準備にとりかかる
(1)(2)(3) 準備も後片付けもすべて村民の手で。(4)(5)化粧道具も代々受け継がれた共有財産。(6)(9)(10)化粧前は入れ代わり立ち代わり現れる座員で常に満杯だ。(7)『奥州安達ヶ原』で、実は安倍貞任の子である千代童を志願して演じた平野千秋さんは小学2年生。(8)床山の星あさみさんは東京からのUターン組。故郷の伝統を受け継いだ。

 午後4時半、座長の打つ太鼓の音が響きわたる。開場だ。檜枝岐歌舞伎は全席自由席。待ちかねた気の早い観客が思い思いの場所へと散っていく。5時を過ぎると続々と人が集まり始め、舞台周辺にご祝儀の「花」を贈った人々の名が張り出されていく。舞台裏は化粧や衣裳の着付け、鬘の調整をする座員たちでごった返し始めた。と、おもむろに場内に設置されたスピーカーから檜枝岐歌舞伎や演目について解説するアナウンスが聞こえてきた。とてもわかりやすく親切な内容だ。

 午後5時半、いよいよ『寿式三番叟』の開演だ。観客の視線を一身に集め、若い役者の身体が軽やかに舞う。その堂々とした舞台におひねりが飛び、歓声が上がった。

歌舞伎と旅

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