歌舞伎いろは

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幕開きの『寿式三番叟』

幕開きは三番叟、独自の作品も上演

(1)『南山義民の碑』のクライマックス。喜四郎(星長一さん)は息子の喜一(星将斗さん)に分かれを告げて直訴に向かう。(2)(3)観客でびっしりと埋め尽くされた境内 (4)(5)喜四郎の母を演じたのはベテランの平野幸子さん。

 儀式舞踊である『寿式三番叟』を別として、檜枝岐歌舞伎には全部で11の演目が伝わっている。『絵本太功記(えほんたいこうき)』『一之谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』などお馴染みの作品が並ぶ中に、耳慣れない外題があった。この日の演し物でもあった『南山義民の碑(みなみやまぎみんのいしぶみ)』である。

 これは檜枝岐出身の医師・馬場霞堂によって昭和8年に書かれた、檜枝岐歌舞伎独自の作品である。凶作にあえぐ南山地方一帯の民のために幕府への直訴を決意する小栗山喜四郎という人物を主人公にした物語で、『佐倉義民伝(さくらぎみんでん)』を思わせる、いわゆるご当地もの。

 芝居が進行するにつれ、辺りはだんだん闇に包まれていく。それとともに気温が下がり、5月とはいえかなり肌寒い。その体感温度とは対照的に、ぽっかりと明るく照らし出された舞台を見つめる心持ちは温かだ。
『南山――』が終演し、ふたたび太鼓が鳴り響く。次は『奥州安達ヶ原(おうしゅうあだちがはら)』である。


※演目名は全て村に伝わる名称に統一して表記しています。

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