歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



かつては最高位の高貴な人にのみ許された紫色。
工程はひとつひとつ繊細な手作業で行われる。

高貴な紫は、手間を惜しまず心を惜しまず。

 長い時間と根気仕事なくして、紫根染の深く高貴な紫は生み出すことができない。紫根染の工程は、生地の下ごしらえから。主に使われているのは白山紬で、これを精錬してから、灰汁などの媒染液に浸け乾燥させたものを、半年以上も棚に寝かせて枯らしてから使う。そうした生地に紋様を摺り込み、手仕事で生地を絞るのだが、これも大変な作業。柄の難しいものになると熟練した職人でも1年以上もかかるそうだ。

 染料となるムラサキ草は、いったん乾かした根を臼に入れて湿りを与え、杵で突いて砕く。それを熱湯に入れて色の成分を抽出し、漉した液に生地を1時間浸ける。その間に先ほどの紫根をまた突いて漉し、二番目の染色液を作る。先ほど浸けた生地を出し、残った液は捨てて二番目の液に再び生地を浸けること一時間。やはり漉したあとの紫根をさらに突いて漉し、浸す作業を12回繰り返し。最低でも6回は続けてやってしまわなければならない。夏は暑く冬は寒い工房での6時間以上続く作業は、かなりの重労働だ。

 染め上げて完成ではなく、3~5年箪笥などに寝かして色を落ち着かせるのも紫根染の特徴。時間を惜しまず寝かせるのも大事な工程。これで初めて本来の南部の紫根の色に仕上がるのだ。

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