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南座「當る子歳 吉例顔見世興行」初日の賑わい

 11月30日(土)、南座「當る子歳 吉例顔見世興行」が初日を迎えました。

 令和最初の「吉例顔見世興行」の幕開けは『輝虎配膳』から。南座の顔見世興行へ70回目の出演となる秀太郎が越路を勤めます。輝虎(愛之助)の饗応に対し、その魂胆を見抜きわざと無礼な言動をする越路、それに怒りを表し衣を脱いで刀に手をかける輝虎、そして琴を弾いて輝虎を止めようとするお勝(雀右衛門)と、三人の気迫に満ちた光景を客席も固唾をのんで見つめます。立派な絵面できまったあと、幕外で花道をきりりと進む越路とお勝の姿に拍手が起こりました。

 

 常磐津の舞踊『戻駕色相肩』は、春爛漫の紫野が舞台。梅玉勤める浪花の次郎作と時蔵勤める吾妻の与四郎、莟玉勤める禿たよりが並ぶと、まるで錦絵のような美しさです。劇中口上で、梅丸から名を改めた莟玉が挨拶をすると、劇場は祝福の拍手に包まれました。次郎作、与四郎、たよりが、それぞれ大阪の新町、江戸の吉原、京都の島原の様子を情緒豊かに踊って見せる、大らかで洒落た雰囲気が漂うひと幕です。

 

 続く『金閣寺』では、松永大膳を鴈治郎、此下東吉を扇雀、狩野之介直信を芝翫、十河軍平を愛之助、そして雪姫を壱太郎が、いずれも初役で勤めます。東吉が井戸から碁笥を拾うくだりや、縛られた雪姫の「爪先鼠」といった眼目に続き、せり下りた金閣寺の高楼から慶寿院尼(藤十郎)が現れた途端、「山城屋!」というかけ声が飛び交いました。大膳の迫力ある立廻りの末、鮮やかに極まった舞台に、客席から喝采が送られました。

 

 昼の部の締めくくりとなる『仮名手本忠臣蔵』「七段目」では、松嶋屋三代が、由良之助、お軽、力弥を勤めます。すっかり遊興にうつつを抜かしている様子の由良之助ですが、力弥から密書を渡され表情を一変。大義を胸に秘めながら、周囲をだまし通す由良之助の気概と色気が、観る者を魅了します。寺岡平右衛門(芝翫)とお軽兄妹の切ないやりとりもみどころです。物語の舞台となった一力茶屋のまさにすぐそばで上演される「七段目」は、南座ならではの味わいがあります。

 夜の部は、近松門左衛門の世話物『堀川波の鼓』から始まります。恋しい夫の彦九郎(仁左衛門)の不在中、お種はふとしたきっかけで宮地源右衛門(梅玉)と関係を結んでしまいます。噂が広まり、彦九郎の妹おゆら(扇雀)、お種の妹お藤(壱太郎)、養子文六(千之助)がそれぞれの立場でお種のために動きますが、結局お種は命を絶つことに。最後に彦九郎が絞り出した言葉とお種の身体に羽織を掛けて嘆く姿に深い愛情と悲しみがにじみ、客席の涙を誘いました。

 

 次は打って変わって、ユーモラスな舞踊劇『釣女』です。恵比須神のお告げを受け、大名(隼人)が、美しい上臈(莟玉)を釣り上げます。我もと意気込む太郎冠者(愛之助)でしたが、釣れたのはなんとびっくりするような醜女(鴈治郎)でした。被衣の下から醜女が現れた瞬間、待ってましたとばかりに客席が沸き返ります。情けない表情の太郎冠者とうれしそうな醜女の滑稽なやりとりに、最後まで笑いが絶えませんでした。

 

 続いての演目は『魚屋宗五郎』。普段はまっすぐな性格の宗五郎(芝翫)は、妹お蔦の悲惨な最期を知り、思わず断っていたお酒に手を出します。酔いが回り、徐々に酒乱になっていく宗五郎と、その様子を見守るおはま(雀右衛門)、小奴三吉(橋之助)、おなぎ(孝太郎)らの絶妙なコンビネーションが笑いを生みます。角樽を片手に、千鳥足でお蔦の奉公先へ殴り込み、感情豊かに啖呵を切るくだりまで、芝翫が見事な酔いっぷりを見せました。

 

 最後を飾るのは、隼人、橋之助、千之助、莟玉の若き四人による『越後獅子』です。日獅子頭をつけ色鮮やかな格好をした角兵衛獅子が、故郷の越後を語りながら軽快に踊り出します。一本歯の下駄に履き替えて息の合った足音を響かせたかと思うと、今度は両手に持った白い布晒を、まるで生きているかのようにくるくると回しながら踊ります。浮き立つようなテンポの見ごたえある舞に拍手が沸き、南座新開場一周年の公演は大賑わいのうちに幕となりました。

 南座新開場一周年記念 京の年中行事「當る子歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎」は11月30日(土)から12月26日(木)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2019/12/05