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新橋演舞場『SANEMORI』の賑わい

 2023年1月6日(金)より新橋演舞場で上演中の「初春歌舞伎公演 市川團十郎襲名記念プログラム『SANEMORI』」。連日多くのお客様で劇場は賑わいを見せています。

  令和元(2019)年に市川海老蔵の自主公演「ABKAI 2019」で初演された『SANEMORI』。時代物の名作『源平布引滝』より『実盛物語』を主軸に、斎藤実盛の生き様や源氏の白旗を巡ったドラマ性あふれる古典作品を、現代の感覚を取り入れた演出で描き出し好評を博しました。今回はこの演目をさらに練り直しての上演です。プロローグでは源義仲(宮舘涼太)が源平の乱で平家打倒の旗を揚げ、亡き父・義賢に思いを馳せる場面から始まります。

 

 そこから舞台は20年以上前の木曽先生義賢の館に移ります。平治の乱後、病のため館に引き籠っていた義賢(宮舘涼太)は、源氏の再興を図っていましたが、これを察した平家の軍勢が突如館へ攻め込んできます。義仲を身ごもっている妻・葵御前(廣松)と源氏の白旗を、九郎助(市蔵)と小まん(児太郎)に託し、義賢は押し寄せる平家の軍勢に一人立ち向かっていきますが、満身創痍のなか壮絶な最期を遂げます。義賢が見せる、戸板倒しや梯子を使用した歌舞伎ならではのダイナミックな大立廻りに場内は湧き上がります。

 

 続いて、平家の武将・斎藤実盛(團十郎)が迫力のある大きな御座船の船首に立ち、登場します。月明りに照らされた美しい実盛の佇まいに、観客は釘付けになります。襲名後、初めて新橋演舞場の舞台を踏む市川團十郎へ、満席の客席からは熱気あふれる拍手が送られます。

 

 そして白旗を平家方に奪われまいと琵琶湖に飛び込んだ小まんは、不運にも実盛たちを引き連れて遊覧中だった平宗盛(友右衛門)の御座船に助けられます。白旗を守り抜く姿勢を見せる小まんを見た実盛は、彼女が掴んでいた白旗もろとも腕を水中に切り落としてしまいます。

 

 ほどなくして葵御前のもとへ、生まれてくる子の検分のために実盛と瀬尾十郎(右團次)がやってきます。しかし、差し出されたのは赤子ではなく人の片腕。元は源氏の武士であり、心を源氏に寄せていると明かした実盛は、旧恩に報いるため、瀬尾を巧みに言いくるめて葵御前の危機を救います。片腕が自身が切り落とした小まんの腕だと確信した実盛が、御座船での様子を扇を用いて物語るくだりは眼目の一つです。親の敵と詰め寄る小まんの息子・太郎吉に、戦場での再会を約束し、馬に乗って颯爽と花道を去っていく実盛に、客席から万雷の拍手が送られます。

 

 大詰ではプロローグの時代に戻り、実盛の計らいによって誕生した義仲と、四天王の一人、手塚太郎となった太郎吉の姿が。実盛の言葉通り、両軍は加賀の戦場で相対する日を迎えることになり、実盛の心の内が明かされます。義仲と手塚太郎、そして巴御前(児太郎)は平家方との息もつかせぬ激しい立廻りを見せ、義仲が勝利をおさめると盛り上がりは最高潮に達し、客席からは割れんばかりの拍手が送られます。実盛と義仲の、立場は違えどともに戦なき世を願う姿に、客席は大きな感動に包まれます。平和を願う物語にお正月の華やかさも加わり、劇場は晴れやかな空気に包まれ幕切れとなります。新橋演舞場でさらなる進化を遂げた『SANEMORI』を、どうぞお楽しみください。

 新橋演舞場『SANEMORI』は27日(金)までの公演です。

2023/01/20