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歌舞伎座「三月大歌舞伎」初日開幕
2025年3月4日(火)、歌舞伎座「三月大歌舞伎」の初日が幕を開けました。
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▲ 『仮名手本忠臣蔵』(Aプロ)左より、尾上松也、中村勘九郎、尾上松緑
A・Bプログラムで配役を変え、昼夜通して上演される『仮名手本忠臣蔵』。初日はAプロで幕を開けました。開幕前の口上人形による、出演俳優と配役の読み上げや、人形に魂が入って動き始める様子を表す人形身など、本作ならではの古式ゆかしい演出で厳かに幕が開き、足利直義(扇雀)の立ち合いによる兜改めを描く「大序」から物語が始まります。高師直(松緑/芝翫)の傲慢な態度に怒りを募らせる桃井若狭之助(松也/尾上右近)と、その間に入る塩冶判官(勘九郎/菊之助)。判官の妻・顔世御前(孝太郎/時蔵)に横恋慕する師直。登場人物たちの性格がそれぞれの衣裳の色でも表現されます。

▲ 『仮名手本忠臣蔵』(Aプロ)左より、中村勘九郎、尾上松緑
続いて、殿中で起きた前代未聞の刃傷沙汰を描いた「三段目」。若狭之助の家老・加古川本蔵(橘三郎)から賄賂の進物を受け取り、不本意ながら若狭之助に謝った師直は、顔世への恋も叶わないと知り、判官に八つ当たりします。師直の罵詈雑言に耐えかねた判官がついに抜刀し、手に汗握る展開、判官の無念さが沁みる表情に観客は息をのんで見入りました。

▲ 『仮名手本忠臣蔵』(Aプロ)左より、片岡仁左衛門、中村勘九郎
「四段目」では、殿中で刃傷に及んだ判官が、石堂右馬之丞(梅玉/彌十郎)と薬師寺次郎左衛門(彦三郎)から切腹を言い渡されます。白裃姿の判官が、大星由良之助(仁左衛門/松緑)の到着を待ちながら、腹に刀を突き立てたそのとき、遂に由良之助が到着し…。上演中の客席の出入りを止めることから“通さん場”とも呼ばれる前半の「判官切腹の場」では、厳粛な雰囲気が場内に漂います。今際の際に伝えられる主君の無念の思いを由良之助が引き受ける場面は、最大の見せ場です。固唾を呑んで見守る客席には涙ぐむお客様の姿も。後半では、いよいよ由良之助が仇討ちの決意を固め、その万感の思いを胸に立ち去る姿に、割れんばかりの拍手が送られました。

▲ 『仮名手本忠臣蔵』(Aプロ)左より、中村七之助、中村隼人
「道行旅路の花聟」は、一転、華やかな雰囲気に包まれます。桜や菜の花が咲く春盛りの東海道を、塩冶判官の家臣・早野勘平(隼人/愛之助)と顔世御前の腰元おかる(七之助/萬壽)が人目を憚りながらやってきます。そこへ、おかるに横恋慕する師直の家臣・鷺坂伴内(巳之助/坂東亀蔵)が現れて…。主君の大事に居合わすことのできなかった勘平を宥めるおかるの姿は、観る者をほころばせながらもどこか哀愁に包まれます。思わずくすりとなる伴内と恋仲の二人とのやりとりと、歌舞伎らしい花四天の派手な立廻りのなか、幕となりました。
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▲ 『仮名手本忠臣蔵』(Aプロ)左より、尾上菊之助、尾上右近
夜の部は、闇夜の出来事を描いた「五段目」から。おかるの親元に身を寄せ狩人となっていた早野勘平(菊之助/勘九郎)は、塩冶家で朋輩だった千崎弥五郎(萬太郎/巳之助)に遭遇し、仇討ちに加わるための金の工面を約束して別れます。一方、おかるが勘平のために内緒で祇園町へ身を売ってこしらえた金を持って家路を急ぐ父の与市兵衛は、斧定九郎(尾上右近/隼人)に襲われて…。雨音、雷の音などを表現する黒御簾音楽が駆使され、場内は不穏な雰囲気に包まれますが、お馴染みの猪に一瞬和らぐ場面も。この後の展開がどうなるのかと観客を釘付けにしたまま、次の場へと続きます。

▲ 『仮名手本忠臣蔵』(Aプロ)左より、上村吉弥、中村時蔵、尾上菊之助
一夜明けた「六段目」。与市兵衛の家では、祇園町の一文字屋の女房お才(萬壽/魁春)が、おかる(時蔵/七之助)を迎えに来ています。そこへ戻ってきた勘平は、おかるの母のおかや(吉弥/梅花)の話を聞くうちに、自分が鉄砲で撃ったのは舅だったのかと狼狽します。おかるの出立の場面では、別れを惜しむ二人の姿に、観客もやるせない気持ちに。さらに「五段目」で起こった事件が絡んで絶望の末に迎えた勘平の結末は、観る者の涙を誘います。勘平は、非業の最期を遂げるまで仇討ちへの思いを強く持ち続け、観客にその姿を印象づけました。

▲ 『仮名手本忠臣蔵』(Aプロ)左より、中村時蔵、坂東巳之助、片岡亀蔵、片岡愛之助
続いては、華やかな廓へと雰囲気変わり、由良之助の本心が明かされる「七段目」です。京・祇園町の一力茶屋では、大星由良之助(愛之助/仁左衛門)が連日遊興に耽っています。おかるの兄で足軽の寺岡平右衛門(巳之助/松也)が仇討ちに加わりたいと懇願しに来ますが由良之助は相手にせず、仇討ちの真意を探りに来る者にも、一切その素振りを見せません。一方、兄妹のほほえましいやりとりから一転、夫・勘平の死を知り悲しむおかる、そして妹を手にかけようと苦悩する平右衛門と、観客は固唾をのんで二人を見守ります。

▲ 『仮名手本忠臣蔵』(Aプロ)左より、尾上菊五郎、片岡愛之助
昼夜にわたりさまざまなドラマを繰り広げてきた物語も、いよいよ最後の「十一段目」。雪の降りしきるなか、浪士たちは、陣太鼓の音を合図に高師直の屋敷内へ討入ります。師直家臣の小林平八郎(松緑/萬太郎)と塩冶浪士の竹森喜多八(坂東亀蔵/橋之助)の死闘をはじめ、浪士たちが繰り広げる激しい立廻りは、クライマックスに相応しい大迫力。亡君の墓前に首を供えるため菩提所へ向う一行の前に、旗本の服部逸郎(菊五郎)が登場し、場内に大きな拍手と大向うが響きます。服部は一行に通行を許すと、見事本懐を遂げた浪士たちを朗々としたせりふをつらねて讃えます。由良之助ら浪士たちの忠義心に感銘を受けながら、勘平を含めた四十七士を観客は服部とともに見送り、その背中に止まない割れんばかりの拍手と感動が送られました。
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歌舞伎座地下2階の木挽町広場(かおみせ)では、3月期間限定で有名な老舗の銘菓を販売いたします。観劇の際はぜひお立ち寄りください。
歌舞伎座「三月大歌舞伎」は27日(木)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中です。