歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



御覧いただきたいのはここ!


女方としての日頃の鍛錬が表れる

 大星由良之助が斧九太夫と奥に入ると2階の障子が開き、お軽が初めて舞台に姿を現します。観客の視線が一斉にお軽に向く瞬間かと思いますが、心がけられることはありますか?
 「このお役に限らず、芝居では出と引っ込みが大切です。“はや里馴れて吹く風に”と義太夫にもありますが、お軽は、あの場では遊女の風情になっている…。廓に慣れたという感じが必要です。色気がほのかに出ます。それが、話が進んでいく間にいろいろと変わり、兄の寺岡平右衛門が出てきたら、妹になり、さらに勘平の女房になります」

 お軽の差していた簪(かんざし)が下に落ち、由良之助は密書を彼女が手鏡で盗み見たことに気づきます。由良之助はお軽に2階から降りてくるように言い、降りるための梯子をかけます。
 「簪はジャリ糸を自分で引いて落とすのですが、義太夫に合わせなくてなりませんし、気を使います。梯子を降りるのも難しい。どちらかというと運動神経のいいほうではありませんので(笑)。“怖いわいな、危ないわいな”と言いながら降りていくのですが、かなり緊張します」
 「由良之助とじゃらついたことを言い合い、色気が見えるところ。そこが、遊女らしさなんでしょう。階段を一段踏み外しますが、その形もきれいに決まらなければならない。日頃の女方としての鍛錬が出るところだと思います」

あるがままに生きているお軽

『仮名手本忠臣蔵』七段目は、こんなお芝居

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平成20年2月歌舞伎座
(C)松竹株式会社

今は京都山科に隠棲する身の塩冶家家老、大星由良之助。いつものように祇園の一力茶屋で遊興にふけっているところへ、塩冶の浪人たちや仇討ちに加わりたい寺岡平右衛門がやってきます。いっこうに取り合わない由良之助ですが、夜も更けた頃、息子の大星力弥が届けたのは亡君の奥方、顔世御前からの密書でした。その密書を、高師直に寝返った家臣の斧九太夫と遊女のお軽に盗み読まれたことに気づいた由良之助は、縁の下に九太夫を閉じ込め、お軽には身請け話をもちかけます。喜びいさんで勘平へ知らせの文を書くお軽。
そこに再び平右衛門が現れ、妹お軽から身請けと密書の話を聞いて由良之助がお軽を殺すつもりと悟ります。手柄を立てて討入りに加わりたいと、お軽を手にかけようとする平右衛門。夫勘平と父与市兵衛の死を知らされたお軽は、兄の願いを聞き入れて覚悟を決めます。その様子に心打たれた由良之助は、平右衛門が仇討ちの徒党に加わるのを許し、勘平の代わりにお軽に九太夫を討たせるのでした。

 お軽が密書を盗み見たことが由良之助に知れてから、お軽の立場はどんどん変わっていきます。
 「まあ、どう考えても鏡で密書の中身がのぞけるわけはありませんよね。でも、そこがおもしろいところで風情があります。それから、由良之助から身請けの話を持ちかけられ、勘平の元へ戻れると喜ぶ。勘平に手紙を書いているところに平右衛門が出てくる。うるさい客で嫌だなと思ってあしらっていたら、お兄さんだとわかってびっくりする。そして、遊女姿の自分を恥じます」

 兄、妹という雰囲気が出る場面ですね。
 「仲のよい兄妹というところが見えます。ところが、お軽の言葉から由良之助の思惑を知った兄に斬りつけられる。でも、勘平が切腹して死んだことを知らされていないお軽は、訳がわからない。だから花道まで逃げて“勘平という夫も”あるのだから、お前の思うようにはならないと言います。段々盛り上がっていくところです。ここは真剣に逃げないといけません」
 「怖がって兄に“あっちゃ向いていてくださんせ”と言ったり、切迫感がある場面でありながらユーモラス。そこが歌舞伎なんです」

 動きもせりふも多く、お軽の可愛らしさが舞台にあふれます。
 「形は遊女ですが、気持ちは妹になっています。お軽は勘平に対する思いを含め、自分の気持ちを押し出し、舞台でいろんなことができるお役なのです。感情を抑えずに、素直に全部出しています」
 「お軽はあるがままに生きています。同じお軽でも『六段目』だとぐっと思いを抑えているし、『三段目』の道行は所作事です。『七段目』は最後まで自分の心情を出せる――。非常にやりがいのある役です」


ようこそ歌舞伎へ

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