歌舞伎いろは

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御覧いただきたいのはここ!


緊張の「金冠」とドキドキの「恋の手習い」

 『男女道成寺』の花子を踊られるのは4回目ですね。面白さと大変さをお話いただけたらと思います。始まりは、白拍子の花子と桜子が金の烏帽子を被った同じ姿で、鐘供養の奉納の舞を舞う、「金冠」の場面です。
 「一番緊張する場面です。ここの振りは『京鹿子娘道成寺』と一緒で、品格を必要とします。前半は、2人が両サイドに別れて踊るので、桜子の姿は花子からは見えません。見て振りを合せることができないので、曲を聞き、歩数を計算して動きます。踊られる方によって歩幅も違いますので、そこも考えに入れます」
 「父(仁左衛門)と踊ったときには(平成15年7月大阪松竹座)、2人が対に見えるように身長差を少なくするため、私が背を高くする継ぎ足をいたしました。その形で腰の位置を落とすので大変でした」

 「真如の月を眺めあかさん」で、桜子の正体が狂言師左近とわかります。そこからは、花子と左近、それぞれが単独で踊る場面と、2人で連れ舞する場面の両方があります。「恋の手習い」では、前半は花子が1人で踊ります。
 「ここのクドキは、『京鹿子娘道成寺』と一緒なので、1人で『娘道成寺』をやらせていただいているような気がしてドキドキするし、うれしいですね。お客様に振りの意味がきちんと伝わるように踊ることが必要です。花子の恋する男の姿が見えるように踊らないといけません」
 「胸倉を取る振りでは、こちらの手の位置が高すぎると、いったい相手はどれぐらい身長が高いのだろう、となってしまいます。たとえば、(坂東)玉三郎のおにいさまが踊られると、本当に人が舞台に見えてくるんですよね」

常磐津は『男女道成寺』の特徴の一つ

『男女道成寺』は、こんな作品

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平成19年4月旧金毘羅大芝居(金丸座)
(C)松竹株式会社

桜満開の道成寺で鐘供養の行われる日のこと。集まった所化たちのところに桜子、花子という2人の白拍子がやって来て、鐘を拝ませてほしいと頼みます。女人禁制でしたが、鐘供養の奉納の舞を舞うなら許すと言われ、さっそく2人は舞い始めます。
ところが、桜子の烏帽子が落ちてしまい、実は左近という狂言師であるとわかります。帰ろうとする左近でしたが、踊りを所望する所化たちが引き留めます。厳かな踊りから、花子の手踊りに左近も加わり、所化も絡んだりして楽しい踊りが続きます。花子は花笠を持った踊りも見せます。
花子が恋に目覚めた娘心を手拭いを使いながらしっとりと踊ると、左近も登場して男女の恋のもつれを描き出します。続いて、鞨鼓や鈴太鼓を打ち鳴らしながら軽快な踊りを見せる2人でしたが、テンポが急に速まったかと思うと鐘の中に飛び込み、蛇体となってその本性を顕しました。実は2人は、愛する安珍との恋が成就せず、嫉妬の念から蛇体となり、道成寺の鐘に巻き付いて中に身を潜める安珍を焼き殺し、自らも息絶えた清姫の怨霊だったのでした。

 踊りとして難しいとお感じになるのは、「金冠」とやはりこの「恋の手習い」ということになりますでしょうか。
 「クドキはやればやるほど難しいですね。手拭いの扱いも気を使うところです。手拭いには、花子と左近を勤める役者の紋が染められています。『かさね』ですと、累(かさね)の役者の鏡に与右衛門の役者の紋が入っている。歌舞伎は、そういう細かなところにもいろいろな趣向がほどこされています」
 「橋之助のおにいさんは成駒屋さんなので、御紋の“祇園守”と私の“追いかけ五枚銀杏”が染められます。代々が『娘道成寺』を得意としてきた成駒屋さんの紋と私の紋が一緒になるのがうれしいです」


 では、踊っていて気持ちのよいところはどこでしょうか。
 「最後に、鐘の上に乗って決まります。女方が高いところ、ましてや上手側で決まることはないので、ここがすごく幸せです」

 『男女道成寺』は長唄以外に常磐津が入るのが『娘道成寺』との違いの一つです。
 「長唄と常磐津の曲調で変化をつけるのが難しい。長唄はさらっとしていて、常磐津はたっぷりとしています。長唄は比較的同じ拍子ですが、常磐津は語りなので、もたせるところはしっかりもたせる。その間の使い方を、左近を踊られる橋之助のおにいさんや演奏家の皆さんと、ディスカッションしながらつくっていけたらと思います」

ようこそ歌舞伎へ

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