歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



もっともっと楽しんでいただくために


自分の気持ちを役に込めて、しかもリアルに演じる難しさ

 忠太郎の演技では、どこにご留意されますか。
 「長谷川伸先生の芝居はリアルにやろうとして、さらさらやると何にもなくなってしまう。歌うせりふが何カ所かありますので、歌うところは歌い、たっぷり言うところはたっぷりと言う。そういうところが勘三郎のおにいさんはいつも素敵でした」
 「歌ったせりふでありながら、気持ちが入ってリアルというのが難しい。テンポよくやれば、それでよい作品ではありません。風情や幸せ、そして孤独の対比を丁寧に見せていかないと最後につながらないので、もう一回よく意識して勤めたいと思います」


 では、獅童さんがお考えになる忠太郎像をお聞かせください。
 「忠太郎はいつも、まだ見ぬ母を探しています。半次郎と母のやりとりを見ても自分と比較してしまい、母に会いたい思いは募るばかりです。それが忠太郎のいいところでもあり、かわいそうなところでもあります。その忠太郎を演じるということは、自分の気持ちをどれだけストレートにぶつけていけるかですね」

 博多座と巡業で『瞼の母』を演じられて印象に残ったことはおありですか。
 「どこの土地でも、決まりぜりふのときは、お客様が一緒になって泣いてくださいました。最後の場面で、おはまと妹のお登世が探しているのを陰で見ながら、忠太郎はそのまま花道を引っ込みます。博多座の公演の後に、屋台でご飯を食べていたら、“何であなたは二人を追いかけていかないの!”と見知らぬ若い女性に問いかけられたことがありました。“すみません”と謝りましたが、その素直な感覚が面白いなと思いました」

日本人特有の心が描かれた長谷川伸作品

明治座 十一月花形歌舞伎

25年11月1日(金)~
25日(月)
公演情報

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平成23年11月松竹大歌舞伎
(C)松竹株式会社
『瞼の母』
昼の部

番場の忠太郎 獅 童
金町の半次郎 松 也
お登世 春 猿
半次郎妹おぬい 新 悟
金五郎 猿 弥
半次郎母おむら 右之助
水熊のおはま 秀太郎

 長谷川伸作品の魅力はどこにあると思われますか。
 「『瞼の母』のような母に対する思いは万国共通でしょうが、長谷川先生の描く人情、情緒、風情は日本特有のものだと思います。欧米のようにイエス、ノーをはっきりさせないで濁らせたままにする。そんな忘れられがちな日本人特有の感覚は、長谷川作品だけではなく、歌舞伎の古典作品にもたくさん残っています」
 「今に生きる人間も、何百年も昔の人間も同じ日本人の血が流れている。だから、昔のストーリーでも、泣いたり笑ったりできる。そうでないと歌舞伎も演劇として滅びてしまうでしょう」


 獅童さんは錦之介さんや勘三郎さんほか、多くの先輩俳優からの教えを本当に大切にされていらっしゃいますね。
 「錦之介の叔父には、“心で芝居をしなさい、表情で芝居をしたらだめだよ”と言われました。勘三郎のおにいさんも同じことをおっしゃいました。明治座で夜の部に演じる『毛抜』は團十郎のおにいさんに教えていただきました。三津五郎のおにいさんにも今回演じる『権三と助十』のお話をうかがいました。情熱を持って教えてくださる先輩がたくさんいらっしゃるのは本当に幸せです」

ようこそ歌舞伎へ

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