歌舞伎いろは

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博多座 「二月博多座大歌舞伎」  『封印切』 知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村翫雀

段取りをつけずに魅せる

 ──忠兵衛の八右衛門とのせりふのやりとりなど、上方歌舞伎らしい味わいを感じます。

 八右衛門はやってみたいですね。頭の中には河内屋のおじさん(三世實川延若)がいらっしゃる。もしご存命で、父(坂田藤十郎)と交替で忠兵衛と八右衛門をやっていただけたら、素敵だろうと思います。また『封印切』は、そういう演じ方が可能な芝居だと思います。

 僕は天王寺屋のおじさん(五世中村富十郎)の八右衛門で、忠兵衛をやらせていただきました(平成7年10月御園座)。僕は、父の忠兵衛と天王寺屋のおじさんの八右衛門の舞台をおもしろいと思って拝見していました。それが自分の忠兵衛のときにも出ていただけた。うれしかったです。

 二人のやりとりは日々変わるし、どうにでもなる。完璧に八右衛門のペースになることもあります。八右衛門の言ったことに、忠兵衛が突っ込んでいく…。誘導するのは八右衛門で、八右衛門によって忠兵衛も変わります。やりがいのある役だろうと思います。

 ──今回、八右衛門をされる中村橋之助さんとは2度目の顔合わせになりますね。どんな工夫をされますか。

 あえて言うなら、二人のやりとりの場面の稽古はしないということです。「このせりふを言うぞ」というのが、あの場面に見えてはいけない。段取りはつけないようにいたします。

博多座 「二月博多座大歌舞伎」

平成26年2月2日(日)~25日(火)

公演情報

昼の部
恋飛脚大和往来こいのたよりやまとおうらい

玩辞楼十二曲の内がんじろうじゅうにきょくのうち『封印切』ふういんきり

亀屋忠兵衛 中村 翫 雀
丹波屋八右衛門 中村 橋之助
槌屋治右衛門 橘三郎
傾城梅川 中村 扇 雀

玩辞楼十二曲を昼夜に1本ずつ上演

 ──今回の博多座公演では、夜の部で『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』の又平をなさいます。

 昼と夜の両方の部に自分の出し物があってうれしいです。「玩辞楼十二曲」には入っておりませんが、初代鴈治郎が勤めています。祖父の二代目鴈治郎は演じておりませんが、大伯父の(林)又一郎も得意としていました。「家の芸」に近いような気がしています。

 この芝居は、おとくの俳優次第で変わる芝居です。平成15(2003)年12月の南座で、父のおとくで勤めました。実は、それ以前に熊本県の八千代座で短期間演じたことがございました。市川猿翁さんの病気休演で、前月に決まった南座公演でしたが、好きな芝居ですし、父を相手にできたことがうれしかった。平成19(2007)年には近松座の中国公演でも勤めました。

 ──南座の顔見世興行では、昭和55(1980)年12月にも『曽根崎心中』の徳兵衛を、おじいさまの二世鴈治郎さんの休演で代役され、平成24(2012)年12月には市川團十郎さんの代役で『石切梶原』の梶原景時を勤められました。

 『石切』の代役をと言われたのは、代わった当日の朝でした。初役でしたし、前日に言われていたら断っていたかもしれません。ホテルの部屋の電話で朝の8時半に起こされて耳を疑い、「えっ?『石切』!?」と何度言ったことか。「とりあえず楽屋に行く」と言い、そのままホテルを出て午前9時には劇場に着き、頭をしゃきっとさせようとシャワーを浴びました。冷静にしなければ、と思ったのを覚えています。勢いで勤めました。

ようこそ歌舞伎へ

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