歌舞伎いろは

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赤坂ACTシアター 「赤坂大歌舞伎」『お染の七役』 今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村七之助

一つひとつ異なる役柄、演じ方も7通り

 ――今回で2度目の『お染の七役』です。演じられるうえでの七役それぞれのポイントをお教えください。初演では(平成24年1月平成中村座)玉三郎さんに教わられたとうかがっております。

 お染はおっとりとしたお嬢様です。娘役なので、声、格好ではなくて体で表現しなければならないのが難しいところですね。玉三郎のおじさまからは、「頭から水が垂れるように」と教わりました。顔の傾け方の心得です。

 お光は怖くなってはいけません。あくまでも可愛らしく。心を病んだ病鉢巻(やまいはちまき)の姿になってからは、娘役というよりは哀れな感じを出したほうがいいかなと思います。

 奥女中竹川はすごく好きな役です。『伽羅先代萩』の政岡とか、片はずし(御殿女中)物の大役へのステップにもなると思います。芸者小糸は、軽く肩の力を抜いてジャラジャラといけばいいのではと思います。二幕目のお染の母、貞昌は難しいですが、つくれるので楽しいです。

 ――お染と早替りも見せる久松、そして伝法なお六についてもお聞かせください。

 久松は難しいですよ。和事の雰囲気がないといけません。何にもない人ですから。また、色気を出すのが難しい。パキパキしないように、柔らかみが必要です。『野崎村(新版歌祭文)』の久松は経験がありませんが、『七役』の久松を勤めると、挑戦してみたいと思うようになります。

 祖父(十七世勘三郎)の『野崎村』の久松の録音テープが残っていますが、素晴らしいです。かといって、僕が祖父のとおりに勤めたら、その辺の青年にしか見えないでしょう。役者の魅力がおおいに関わる役です。しどころがない役をいい役に見せる…。そういうところが歌舞伎は面白いと思います。

 お六は、しどころがあります。気持ちよく、自信をもってやらないといけないと思いました。玉三郎のおじさまには、お六は「あまり声をつくらないで、地声でやりなさい」と教えていただきました。

於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)『お染の七役』(おそめのななやく)

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平成24年1月平成中村座
撮影:松竹株式会社

 ここは柳島の妙見。参詣に来た質店油屋のお染は、奉公人の久松とはぐれてしまいました。久松の許嫁のお光は、久松がお染と恋仲にあると聞いて追いかけてきたのですが、嫁菜売りの百姓、久作に慰められてしぶしぶ帰ります。次に現れたのは、お染の兄の多三郎と深い仲の芸者、小糸。小糸の身請けのため、多三郎は店から名刀牛王吉光の折紙(鑑定書)を持ち出し、番頭の善六に金に換えさせようとします。しかし、善六には多三郎を追い出して店もお染も手に入れようという魂胆があり…。

 料理屋橋本では、久松が奥女中竹川と話し込んでいます。竹川は久松の姉で、父がお預かりの牛王吉光と折紙を紛失したため家は断絶、二人はその行方を捜しているのでした。竹川から、刀を買い戻す金の工面を頼まれた土手のお六は、命の恩人である竹川に報いようと、亭主の鬼門の喜兵衛に相談します。実は喜兵衛が牛王吉光を盗み出した本人だったのですが、素知らぬ顔で油屋から百両を強請りとる一計を案じます。

 翌日、お六と喜兵衛は油屋へ乗り込んだものの、嫁菜売りの久作が現れて悪事が露顕。久作はひょんなことから手にしていた折紙を山家屋清兵衛に渡します。一方、座敷ではお染の母、貞昌が、家のために清兵衛に嫁ぐよう頼むので、身をはかなんだお染は久松と心中を誓い合います。久松は喜兵衛から牛王吉光を取り戻し、お染のあとを追って隅田川へと向かいますが、そこに乱心したお光が現れて…。

早替りをファッションショーにしないこと

 ――七役の早替りが、みどころの一つになるお芝居です。

 早く替わればいいというものではないんです。支度ができ上がっても、ちょっと待っていたりすることもあります。早く替わったように見せる間合い、テクニックですね。いい間で入り、いい間で出てくることが重要で、これはお客様との駆け引きです。玉三郎のおじさまには、「早替りのファッションショーになったらだめよ」と言われました。

 ――スタッフとのチームワークも重要なのでしょうね。

 玉三郎のおじさまが、そのときどの場所にいたらいいかなど、細かく教えてくださいました。僕の動きや間がスタッフと合うように毎日、気を配りました。初演の中村座はスペースが小さかったので大変だったんです。舞台袖がないので、裏に支度するスペースをつけてもらいました。今回もそうなると思います。

ようこそ歌舞伎へ

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